1 製薬業界を取り巻く環境
製薬業界は、消費者の健康と安全に直接関わる製品を扱うため、景品表示法や薬機法等の厳格な規制遵守が求められます。広告や表示を行う際に、本来の効能とは異なる記載や誤認させるような記載を行うと、消費者の健康被害を招く危険性があるだけでなく、法令違反となり自社の社会的信用を失墜させる事態にもつながります。こういった事態を防ぐためにも、景品表示法と薬機法についての理解を深める必要があります。
2 景品表示法と薬機法の関係
景品表示法と薬機法は、ともに商品の表示や広告に関する規制を含んでいますが、その適用範囲と目的は異なります。
景品表示法:すべての商品・サービスの表示を対象とし、不当な表示を規制
薬機法:医薬品等の特定の製品カテゴリーを対象とし、より厳格な広告規制を設定
医薬品等の広告を行う際には、両方の法律を考慮する必要があります。
3 景品表示法の基礎知識
3.1 景品表示法とは
景品表示法は、商品やサービスの取引において、消費者を誤認させるような不当な表示や過大な景品類の提供を規制する法律です。この法律の目的は、公正な競争を確保し、消費者利益を保護することにあります。
製薬業界における景品表示法の適用は、特に重要かつ慎重に扱われます。医薬品が人々の健康と生命に直接影響を与える製品であるため、その広告や表示には厳格な規制が課せられています。以下に、製薬業界における景品表示法上の主なポイントを解説します。
医薬品の効能効果の表示:医薬品の効能・効果について、承認された範囲を超えて表示することは、景品表示法における優良誤認表示に該当する可能性があります。製薬会社は、医薬品の広告や表示において、承認された効能・効果のみを正確に表示する必要があります。例えば、臨床試験で確認されていない効果を謳うことや、承認されていない適応症に対する効果を示唆することは、禁止されています。また、効能・効果の表現方法も、誇張や曖昧さを避け、科学的根拠に基づいた明確な記述が求められます。
比較広告の規制:他社製品との比較広告を行う際は、客観的な根拠に基づいた公正な比較が求められます。不当に自社製品を優位に見せるような比較は、優良誤認表示として規制の対象となる可能性があります。比較広告を行う場合は、比較対象となる製品の選定基準、比較項目の妥当性、データの信頼性などを慎重に検討する必要があります。また、比較結果の提示方法も、消費者に誤解を与えないよう、公平かつ明確でなければなりません。さらに、他社製品を不当に貶めるような表現は避ける必要もあります。
安全性情報の表示:医薬品の副作用や安全性に関する情報を適切に表示することが重要です。重要な安全性情報を省略したり、軽視したりするような表示は、優良誤認表示として問題になる可能性があります。製薬会社は、医薬品の効能・効果だけでなく、想定される副作用や注意事項についても、明確かつ適切に情報を提供する義務があります。特に、重大な副作用や特定の患者群に対する注意事項は、目立つ形で表示する必要があります。また、新たな安全性情報が得られた場合は、迅速に情報を更新し、医療関係者や患者に適切に伝達することが求められます。安全性情報の表示は、単に法令遵守の問題だけでなく、患者の安全と製品への信頼性を確保する上で極めて重要な要素です。
3.2 景品表示法に違反した場合の措置
景品表示法に違反した場合、以下のような措置が取られる可能性があります。
措置命令:調査の結果、優良誤認表示などの不当表示に該当する行為が確認された場合、消費者庁は措置命令を発することがあります。これには違反行為の差止め、再発防止のための必要事項の実施、今後の違反行為の禁止が含まれ、これらの実施に関連する事項が公表されます。措置命令に従わない者には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科され、情状により両方が併科される場合もあります。加えて、行為者の所属する事業者には3億円以下の罰金が科されます。また、措置命令違反の計画を知りながら防止措置を講じなかった、または違反行為を知りながら防止措置を講じなかった法人の代表者にも、300万円以下の罰金が科されます(第50条)。
課徴金納付命令:優良誤認表示等を行った場合、課徴金対象期間における売上額の3%を課徴金として納付する課徴金納付命令が出される場合があります(第8条)。課徴金対象期間は、原則として不当表示の開始日から終了日までです。ただし、表示終了後も対象商品・役務の取引が継続した場合、終了日から一般消費者の誤認を解消する措置を講じた日または表示行為終了から6カ月経過日のいずれか早い日までの間に行われた最後の取引の日までが対象期間に含まれます。
罰金(直罰):これまで、優良誤認表示や有利誤認表示の行為自体は故意で行った場合でも刑事罰の対象ではありませんでした。しかし、2023年の法改正により、故意(表示と実際の内容が異なり、それによって消費者が誤認することを知っている場合)に優良誤認表示・有利誤認表示をした場合、措置命令の違反を待たずして、犯罪として100万円以下の罰金が科されることになりました(第48条)。
3.3 景品表示法の違反事例
ある製薬会社が製造・販売する空間除菌製品で景品表示法違反が認定された重要な事例があります。この製品は従来から感染症対策製品として販売されていましたが、新型コロナウイルスの流行時に、科学的根拠が不十分なまま効果を謳った広告を行い、問題となりました。この事例は、医薬品等の広告における科学的根拠の重要性を示す代表的な教訓として認識されています。
当該商品は、商品パッケージに「空間除去」「ウイルス除去」等の表現を記載し、新型コロナウイルスへの効果を示唆する表示を行いましたが、消費者庁の調査により、これらの表示には合理的な根拠がないとして優良誤認表示と判断されました。その結果、消費者庁から措置命令を受け、数億円規模の課徴金納付命令が課されました。課徴金納付命令では、当事者の社名や違反内容、命令の詳細が公表されたため、株価の下落や信用失墜など、企業経営に重大な打撃を与え、社会的な批判を招きました。
この事例は、科学的根拠が不十分な効果を謳う表示の危険性と、景品表示法違反が企業に及ぼす深刻な影響を示す重要な教訓となっています。
4 薬機法の基礎知識
4.1 薬機法とは
薬機法は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品(以下、「医薬品等」)の品質、有効性及び安全性を確保するための法律です。医薬品等は人の身体に直接作用するため、その品質や有効性、安全性が国民の健康と安全に直結します。そのため、製品の研究開発や製造だけでなく、販売や広告、市販後の安全性に至るまで規制が定められています。
製薬業界における薬機法の重要性は極めて高く、以下の点について特に慎重な対応が求められます。
承認申請プロセス:新薬の開発から承認までの厳格なプロセスを遵守する必要があります。承認を受ける場合には、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から品質、有効性及び安全性の審査を受けた上で、厚生労働大臣からの承認を受ける必要があります。
GMP(Good Manufacturing Practice)適合性調査:医薬品の製造にあたっては、医薬品を製造するための要件(GMP)に適合し、医薬品の製造管理及び品質管理の基準を厳守し、高品質な製品を一貫して生産する体制を整える必要があります。医薬品を製造する際には、承認または一部変更承認を受けようとするときのほか、承認を受けてから5年ごとにGMP適合性調査を受けなければなりません。
市販後安全対策:医薬品の有効性や安全性の評価は限られた状況での治験等による情報でしかありません。市販後はより多くの人が、様々な状況で製品を使用することになるため、製品の市販後も継続的な安全性モニタリングと副作用報告が求められます。これには製造販売後調査の実施、副作用情報の収集・分析・報告、安全性定期報告の提出、迅速な安全対策の実施が含まれます。
広告規制の遵守:医薬品について不適切な広告がなされた場合、誤った使い方をされたり、本来必要な治療を受けずに症状が悪化したりするなど、保健衛生上の危害を生じさせるおそれがあります。そのため、虚偽または誇大広告の禁止、効能や効果等について医師等が保証したと誤解させる広告の禁止など、厳格な広告規制を遵守する必要があります。これには販促資材の審査体制の確立、ソーシャルメディアでの情報発信の管理、医療関係者向けプロモーション活動の適切な実施が含まれます。広告規制に関しては景品表示法とも関係しているポイントですので、4.2において詳しく解説します。
これらの規制を遵守するためには、法務部門における薬機法の十分な理解のほか、コンプライアンス体制の強化、薬事部門の専門性向上、継続的な社員教育が重要です。また、近年、国際的な規制調和への対応やデジタル技術の進展に伴う新たな規制要件への適応も求められるようになっており、薬機法対応に関する法務部門への期待はさらに高まっているといえます。
4.2 薬機法における広告規制
4.1では薬機法の意義や重要性、そして広告規制の存在について解説しました。ここでは、医薬品等に関する広告規制の全体像と、景品表示法と薬機法の関係について詳しく説明します。なお、医薬品等の広告規制は薬機法だけでなく、厚生労働省から出された通達等にも定められているため、併せて解説します。
4.2.1 広告規制の全体像
薬機法における医薬品等の広告規制は、大別して①薬機法、②厚生労働省の「医薬品等適正広告基準(適正広告基準)」、「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について(通称「ガイドライン」)」、③業界団体が作成している自主基準に分かれています。
①薬機法においては4.1で記載の通りの広告規制がありますが、②の「適正広告基準」においては、薬機法で定めている虚偽または誇大広告の禁止についての解釈と詳細な規制を定めています。「ガイドライン」は「適正広告基準」の解説書として参照されています。③の自主基準は各業界団体が自主的に作成している基準であり、「適正広告基準」を踏まえて作成されています。業界団体に所属している場合は、①や②と同様にこの自主基準も遵守が必要となります。
4.2.2 景品表示法と薬機法の広告規制
医薬品等の広告規制については4.2.1で説明しましたが、これらの規制を守るだけでは十分ではありません。3で述べたように、医薬品等の広告には景品表示法の規制も適用されるため、4.2.1の広告規制に加えて景品表示法も遵守する必要があります。景品表示法と薬機法の差異については下記の通りです。
景品表示法
概要:商品やサービスの取引において、消費者を誤認させるような不当な表示や過大な景品類の提供を規制する法律
管轄:消費者庁、都道府県庁
広告規制
商品等の品質や内容等に関して、消費者を誤認させるような不当な広告をすること
薬機法
概要:医薬品等の品質、有効性及び安全性を確保するための法律
管轄:厚生労働省、都道府県庁、警察
広告規制:医薬品等の効能や効果等に関して、虚偽や誇大な広告をすること
景品表示法は全ての商品やサービスに適用され、商品の実際の品質や性能を超えて著しく優れていると表示したり、根拠なく他社商品より優れていると表示したりするなど、消費者を誤認させる不当な広告を規制しています。一方、薬機法は医薬品等の特定商品のみに適用され、承認された効能以外の効能があるという虚偽表示や、承認された効能を超えた効果があるかのような誇大広告を規制しています。したがって、医薬品等について虚偽や誇大な効能表示をしていなくても、他社の医薬品等と比較して優れているという表示をした場合、景品表示法違反となります。
以下のケースで考えてみましょう。
LOT製薬株式会社は目薬を開発し、「目の疲れ」の効能について承認を受けた。しかし、競合他社のLF薬品株式会社が同様の効能を持つ目薬を既に販売していたため、LOT製薬株式会社は自社製品の販売促進を目的として、以下の広告を考案した。
「目の疲れにすぐ効く!当社の目薬は、最新の技術で開発された画期的な製品です。他社製品とは違い、目の疲れがすっきり取れ、肩こりや頭痛にも効果があります!」
このような広告を展開した場合、景品表示法と薬機法上、どういった問題があるでしょうか。
まず、「すぐ効く」という表現は、承認された効能の範囲を超えた効果を暗示するため、薬機法違反となる可能性があります。次に、「画期的な製品」という表現は、誇大広告として薬機法違反となる可能性があります。また、「他社製品とは違い」という表現は、具体的な根拠なく優位性を主張しており、景品表示法の優良誤認表示に該当する可能性があります。最後に、「肩こりや頭痛にも効果があります!」という表現は、承認された効能以外の効能があるという虚偽表示になりますので、薬機法違反に当たります。
上記を踏まえ、一案として考えられる広告表現としては、
「疲れ目に効果がある目薬です。使用方法や注意事項をよく読んでお使いください。」
のようなものが考えられます。
このような表現であれば、承認された効能の範囲内で適切に情報提供ができます。
4.3 薬機法に違反した場合の措置
薬機法に違反した場合、違反の重大性や社会的影響に応じて、以下の行政処分または刑事罰が課されます。
行政処分:薬機法に違反する医薬品等を販売している場合、厚生労働大臣または都道府県知事から廃棄・回収等の命令を受ける可能性があります(第70条)。さらに、医薬品等の品質管理や製造販売後安全管理の方法が不適切な場合は、厚生労働大臣から業務停止命令を受ける可能性があります(第72条)。重大な違反や繰り返しの違反の場合、医薬品等の製造・販売に関する許可・登録が取り消されます(第75条、第75条の2)。
課徴金納付命令:薬機法上の広告規制に違反した場合、厚生労働大臣から課徴金納付命令を受ける可能性があります。課徴金額は原則として、違反広告を行っていた期間における医薬品等の対価(売上)の4.5%です(第75条の5の2)。
刑事罰:違反行為の内容に応じて、個人には最長3年の懲役刑、法人には最高1億円の罰金刑が科されます(第84条、90条)。特に悪質な場合は、懲役刑と罰金刑が併科されることがあります。
4.4 薬機法の違反事例
A製薬会社の高血圧症治療薬X錠に係る広告が、薬機法違反であると認定された事例があります。
A製薬会社は、X錠と他社製品の脳卒中等の発現率のグラフについて、統計的な有意差がないにもかかわらず、X錠を長期間服用した場合に有意差があるかのような誤解を招きかねない強調表現や、「切り札」という強い表現で「糖尿病」など本来の効能効果でない副次的効果があるかのような表現をした広告を行いました。この広告が「誇大広告」にあたるとして、厚生労働省より行政処分として業務改善命令が出されました。
5 おわりに
景品表示法と薬機法は、消費者保護と公正な競争の確保のために重要な役割を果たしています。法務初心者の方も、これらの法律の基本的な概念と規制内容を理解し、適切に対応することが求められます。本記事が、皆様の法務業務の一助となれば幸いです。
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参考文献
【景品表示法】
西川康一 編著『景品表示法』(商事法務, 第6版, 2021年)
落合孝文, 松倉香純, 平井健斗, 松田 一星 著『デジタルヘルス事業参入の法務』(中央経済社, 2022年)
田中宏岳, 古庄俊哉, 小山隆史, 廣瀬崇史, 小森悠吾 著『テーマ別 ヘルスケア事業の法律実務』(中央経済グループパブリッシング, 2023年)
奈良恒則 監修『事業者必携 入門図解 改正対応!特定商取引法・景品表示法のしくみと対策』(三修社, 2016年)
【薬機法】
落合孝文, 松倉香純, 平井健斗, 松田 一星 著『デジタルヘルス事業参入の法務』(中央経済社, 2022年)
堀尾貴将 著『実務解説 薬機法』(商事法務, 2021年)
倉賀野伴明 著『医療機器ビジネスの法律実務』(中央経済社, 2022年)
田中宏岳, 古庄俊哉, 小山隆史, 廣瀬崇史, 小森 悠吾 著『テーマ別 ヘルスケア事業の法律実務』(中央経済グループパブリッシング, 2023年)
赤羽根秀宜, 井上惠子 著『Q&A 健康・医薬品・医療の広告表示に関する法律と実務』(日本加除出版, 2020年)
早崎智久, 五反田美彩 著『Q&Aでわかる 医薬品・美容・健康商品の「正しい」広告・EC販売表示』(技術評論社, 2023年)
厚生労働省,「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の概要」,https://www.mhlw.go.jp/content/000693248.pdf,(2024年12月16日確認)