グループガバナンスとは
「ガバナンス(コーポレートガバナンス)」とは、企業がステークホルダーの立場を踏まえつつ、透明・公正かつ迅速・果断に意思決定を行うための仕組みです。
「グループガバナンス」とは、株式会社とその親会社・子会社から成る企業集団(=グループ)の全体におけるガバナンスを意味します。
金融庁と東京証券取引所が共同で策定した「コーポレートガバナンス・コード」では、主に単体の企業の経営を念頭に置いて、ガバナンスの在り方に関する各種原則が示されています。
他方で、実際の企業経営はグループ単位で行われることが多いことを踏まえて、コーポレートガバナンス・コードを補完するものとして、経済産業省によって「グループガイドライン」が公表されました。グループガイドラインでは、グループガバナンスの在り方についての指針が示されています。
参考:グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)|経済産業省
グループガバナンスが機能していない企業に見られる課題
グループの規模が大きくなるほど、親会社によるグループ全体の管理は複雑になります。グループガバナンスが機能不全に陥っていると、子会社の事業に関するリスクを把握できず、不正行為や重大な経営課題の発見が遅れるおそれがあるため注意が必要です。
グループガバナンスが機能していない企業においては、特に次のような課題がよく見られます。
- 子会社の基本情報やリスクを把握できていない
- 子会社の意思決定などが親会社に報告されていない
- 親会社の子会社に対する権限の範囲が不明確
子会社の基本情報やリスクを把握できていない
親会社が子会社の事業内容や財務状況、コンプライアンス上の課題などを十分に把握できていないと、子会社の経営についてステークホルダーに対する適切な説明ができず、またグループ全体における事業活動の整合性や統率がとれなくなってしまいがちです。
親会社において、子会社ごとのリスクを継続的に把握・評価し、必要に応じて介入できる体制を整備することが、グループガバナンスの大前提となります。
子会社の意思決定などが親会社に報告されていない
子会社における重要な意思決定の内容やプロセスは、親会社に対して適時に報告されなければなりません。適切な報告が行われないと、グループ全体における経営判断の遅れや過誤、重大な問題の見落としなどにつながるおそれがあります。
グループ全体において、親会社の事前承認を要する事項や事後的に報告すべき事項などを明確に整理し、子会社に遵守を義務付けることが重要です。
親会社の子会社に対する権限の範囲が不明確
親会社が子会社の細かい業務に介入しすぎると、子会社の迅速な意思決定を妨げてしまいます。他方で、子会社を完全に「放任」してしまってはガバナンスが機能しません。グループガバナンスにおいては、親会社が介入する場合と介入しない場合のバランスをとることが重要になります。
親会社の子会社に対する権限の範囲が不明確だと、場当たり的な判断によって子会社の管理を行わざるを得ず、グループガバナンスが機能不全に陥ってしまいます。子会社に対してどのような範囲で介入を行い得るのか、親会社の権限の範囲を明確化することが重要です。
グループガバナンスで検討すべき主な論点
グループガイドラインでは、グループガバナンスに関連する次の事項の在り方が示されています。各事項の要点を解説します。
- グループ設計
- 事業ポートフォリオマネジメント
- 内部統制システム
- 子会社経営陣の指名・報酬
- 上場子会社に関するガバナンス
グループ設計|全体をどのように設計するか
「グループ設計」とは、グループにおける法人の構成・組織形態・権限配分などを設計することです。各社の事業特性や多角化・グローバル化などの状況を踏まえつつ、中長期的な企業価値の向上と持続的成長を実現するために合理的なグループ設計の在り方を検討することが求められます。
一般的には、多角化やグローバル化の段階が進んでいくに連れて、中央集権的な組織形態から分権的な組織形態へ移行することが合理的と考えられます。状況によっては法人格の分離(事業の子会社化)も検討すべきですが、その場合は親会社による管理の実効性が低下するリスクや、意思決定プロセスの重層化によって調整コストが増大することに留意が必要です。
事業ポートフォリオマネジメント|経営資源をどのように振り分けるか
「事業ポートフォリオマネジメント」とは、複数の事業セグメントの間で、資本や人材などの経営資源を配分することを意味します。
グループ企業が収益性を高めるためには、限られた経営資源を競争優位性が最も活かせる事業(=コア事業)に集中することが重要です。その一方で、相対的に成長可能性が低い事業(=ノンコア事業)からは撤退するなど、事業ポートフォリオを最適化することが求められます。
グループ本社は、人口減少による国内市場の縮小傾向といった外的な問題や産業構造の急激な変化などに対応するため、定期的に事業ポートフォリオを見直して経営資源の最適に配分する役割を担います。投資や事業の切り出しなどに関する基準を設定する、客観的な評価指標を用いて事業を評価するなどの「仕組み」を構築することが期待されます。
内部統制システム|グループ全体の業務の適正化・効率化
グループとして中長期的な企業価値の向上を目指すには、リスク管理を適切に行うための「内部統制システム」の構築・運用が重要な課題となります。内部統制システムとは、会社における業務の適正性を確保するための仕組みです。
グループガイドラインにおいては、コンプライアンスや不正防止としての「守りのガバナンス」にとどまらず、「事業戦略の確実な執行のための仕組み」として内部統制を捉え直す視点も重要であると指摘されています。多様なステークホルダーの利益に配慮しつつ、企業の社会的責任やブランド価値、レピュテーションの維持・向上に向けた取り組みが期待されます。
子会社に対する内部統制|監視・監督型と一体運用型
グループ本社においては、子会社の不祥事もグループ全体の企業価値の毀損につながり得ることを踏まえて、その予防や早期発見、適切な事後対応に取り組むことが求められます。
グループガイドラインでは、グループにおける内部統制システムの具体的な設計として「監視・監督型」と「一体運用型」の2種類が挙げられています。
【監視・監督型】
子会社ごとの体制整備・運用を基本としつつ、各子会社における対応が適切に行われているかを親会社が監視・監督します。
【一体運用型】
子会社も親会社の社内部門と同様に扱い、親会社が中心となって一体的に内部統制システムを整備・運用します。
両者は択一的ではなく、両方を組み合わせることも考えられます。どちらを選択するか、あるいはどのような比重で組み合わせるかは、子会社の規模や事業内容、グループ戦略などを踏まえて検討する必要があります。
内部統制システムにおける「3ラインモデル(3線ディフェンス)」の重要性
グループガイドラインでは、内部統制システムの構築・運用のために「3線ディフェンス」の導入と適切な運用のあり方を検討すべきとされています。
「3線ディフェンス(Three Lines of Defense)」は「3つの防衛線」などとも呼ばれている、内部統制システムを実効的に機能させるための考え方です。事業部門(第1線)、法務財務等の専門性を備えつつ事業部門の支援と監視を行う管理部門(第2線)、第1線・第2戦の有効性を監査する内部監査部門(第3線)の3段階でチェックを行い、企業不祥事の未然防止を図ります。
事業部門(第1線)においては、コンプライアンスを確保するためのルール整備やITインフラの導入などのハード面の取り組みに加えて、現場担当者のコンプライアンス意識を醸成・浸透させるソフト面の取り組みも求められます。
管理部門(第2線)については、事業部門からの独立性を確保しつつ、親会社の管理部門と子会社の管理部門を直接のレポートなどで通貫させることも検討すべきとされています。
内部監査部門(第3線)については、監査の実効的に行うため、事業部門や管理部門からの独立性を実質的に確保することの重要性が強調されています。
なお一般社団法人日本内部監査協会(IIA)は、3線ディフェンスの考え方をより発展させた「3ラインモデル」を提唱しています。3ラインモデルは、企業のリスクマネジメントが「ディフェンス(防御)」や価値の保全の問題だけでなく、目標の達成と価値の創造に貢献することにも焦点を当てた考え方です。
参考:IIAの3ラインモデル 3つのディフェンスラインの改訂|一般社団法人日本内部監査協会
子会社経営陣の指名・報酬|親会社にて戦略的に検討すべき
子会社経営陣の指名や報酬については、グループとしての共通化・一元化の要請と、各子会社・各地域の多様性に応じた柔軟な対応の要請との適切なバランスを図ることが重要です。
グループとしての一体的運営の観点からは、主要な完全子会社の経営トップの報酬を親会社の取締役会・委員会において審議することや、グループの社長・CEO等の後継者候補に子会社の経営陣ポストを割り当てることなどが考えられます。
経営陣の報酬の仕組みもグループ全体で統一することが望ましいですが、実際には経営層の人材市場が地域ごとに形成されており、役員報酬の水準や慣行も地域ごとに異なるため、統一が現実的ではない状況も少なくありません。こうした状況では、人材市場の状況を無視した報酬政策の統一化が必ずしも得策でない場合があることに注意を要します。
グループガイドラインでは、当面の現実的な対応として、一定レベル以上のポストを対象に職務格付けなどの客観的・統一的な基準を導入しつつ、具体的な報酬水準は地域ごとの実情を踏まえて決定する方法を示されています。
いずれにしても、子会社経営陣の指名や報酬の仕組みについては、グループ本社において中長期的な視点で戦略的に検討することが求められます。
上場子会社に関するガバナンス|利益相反に注意
上場している子会社については、その一般株主(=支配株主でない株主)と親会社の間で利益が相反する場面が生じることがあります。たとえば、親会社と上場子会社が直接取引をする場合、事業部門の譲渡や関連事業間の調整を行う場合、上場子会社を完全子会社化をする場合などが典型例です。
特に、親子会社間または兄弟会社間で事業分野の重複や競合関係がある場合や、親子会社の経営トップが兼務している場合には、利益相反取引が発生する蓋然性や上場子会社の一般株主の利益が害されるリスクがより高まることが指摘されています。
親会社においては、そもそも子会社の上場を維持することが、グループ全体としての企業価値向上や資本効率性の観点から最適であるかどうかを定期的に点検したうえで、投資家に対する説明責任を果たすことが求められます。
そのうえで上場子会社を維持する場合には、利益相反リスクに留意したうえで、上場子会社の独立した意思決定を担保する実効的なガバナンス体制を構築すべきとされています。
上場子会社の側でも、利益相反リスクに対応するための実効的なガバナンスの仕組みの構築が求められます。
取締役会における独立社外取締役の比率を高めることを基本としつつ、それが直ちに困難な場合の代替手段として、重要な利益相反取引については独立役員を中心とした委員会で審議・検討する仕組みが提案されています。
グループガバナンスについてよくある質問
親会社は子会社の経営にどこまで関与すべき?
細かい業務にまで介入しすぎると迅速な意思決定の妨げになる一方で、完全な放任状態ではグループガバナンスが機能しません。子会社の自律性を尊重しつつ、重要事項については必要に応じて介入するバランスのよい対応が求められます。
子会社が不祥事を起こした場合、親会社は法的責任を負う?
親会社と子会社は別の主体なので、子会社の不祥事について直ちに親会社が法的責任を負うとは限りません。ただし、子会社の不祥事について親会社にも故意または過失がある場合は、親会社も損害賠償責任を負う可能性があります。
また、子会社の管理等を担う親会社の役員は、その任務を怠ったために子会社の不祥事が発生したときは、会社に生じた損害を賠償しなければなりません。
「GovernOn」でグループガバナンスと子会社管理をスマートに
グループガバナンスの実効性を高めるには、子会社の基本情報や取締役会の意思決定プロセスを透明化し、タイムリーに把握する仕組みが不可欠です。AIコーポレートガバナンスプラットフォーム「GovernOn」は、子会社の法人情報や役員情報、主要な会議体の議題・決議を一元管理し、グループ全体のガバナンス状況を可視化します。タスク・期限管理の自動化や「GovernOn AI」による決議案のドラフト作成補助、安全なドキュメント管理機能により、ガバナンス事務局の運営工数を劇的に削減しながら、健全なグループ経営を支援します。
まとめ
グループガバナンスは、グループ企業全体がステークホルダーの立場を踏まえつつ、透明・公正かつ迅速・果断に意思決定を行うための仕組みです。経済産業省の「グループガイドライン」を参考にしつつ、自社グループの事業や組織の実態に合ったガバナンスの構築に努めましょう。
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