契約審査の関連業務によく見られる非効率
契約審査に関連する非効率は、レビューという一つの作業だけで起きるわけではありません。案件の受付から、リサーチ、ひな形の整備、契約書の管理、過去のナレッジの活用まで、業務の各段階でそれぞれ異なる原因により発生します。
① 依頼が多く、優先順位がつけられない
事業部門からの依頼が、メールやチャットなど複数の経路から個別に届くことはよくあります。経路が分かれていると、依頼全体を横断的に把握しづらくなり、緊急度や重要度を比較して優先順位をつけることが難しくなります。特に、複数の担当者で案件を分担している体制では、この状況がより深刻になりやすくなります。
② 法令・ガイドラインのリサーチに時間がかかる
契約審査では、関連する法令や判例、行政ガイドラインのリサーチにその都度時間がかかるケースが多く見られます。過去にリサーチした論点や結論が記録として残っていない場合、類似の案件が来るたびに同じリサーチを一から繰り返すことになります。
③ 審査観点が属人化して、若手メンバーの審査効率が悪い
複数人の体制で契約審査を行っている場合、ナレッジの共有が不十分だと、契約審査の観点や判断基準が属人化し、経験の浅いメンバーの審査対応が思うように進まないことがあります。加えて、若手メンバーが判断に迷うたびにベテラン担当者へ確認する場面が増えるため、ベテラン側の対応効率も落ちてしまいます。
④ 法改正対応などによるひな形のメンテナンスが大変
自社のひな形が、最新の法改正やガイドライン改定に対応しているかどうかを、定期的に確認し、必要に応じて条文を見直す必要があります。契約類型ごとに複数のひな形を保有している企業では、この確認・更新作業だけでも一定の工数がかかります。
⑤ 締結後の契約書の所在が分からない
契約書が担当者や部署ごとにばらばらに保管されていると、更新期限や契約終了日を個別に確認する必要が生じ、契約書ごとに都度時間がかかります。監査や社内からの問い合わせに対応する際も、該当の契約書をその都度探し出す必要があり、対応に時間がかかります。
⑥ 過去の類似案件の対応を調べるのが大変
過去の判断理由や交渉の経緯が担当者個人のメールにのみ残っている状態では、組織のナレッジとして蓄積されません。似たような相談が来るたびに、対応した担当者に直接確認したり、メールボックスや共有ストレージを一件ずつ探し回ったりする必要が生じ、対応に時間がかかります。
契約審査の効率化は仕組み化で実現する
ここまでで挙げたような非効率は、基本的に業務を仕組み化することで解消できます。そして仕組み化の手段には、既存の社内ツールや運用でカバーする方法と、AIなど最新のテクノロジーを活用する方法の大きく2つに分けられます。
既存の体制・ツールを活用した業務効率化
費用や導入のハードルが低く、すぐに着手しやすい方法です。たとえば、Googleフォームなどのオンラインフォームで依頼の受付を一本化したり、Excelやスプレッドシートで案件や契約書の一覧・進捗を管理したりする方法が挙げられます。ただし、ルールやフォーマットの整備・浸透には運用の手間がかかり、情報量が増えるほど検索性や更新の手間が課題となる傾向があります。
AIを活用した業務効率化
最近のAIツールでできるようになったこと
近年は、指示を出すと複数の作業を自律的にこなす「AIエージェント」が法務の実務でも使われ始めています。たとえば、依頼内容を読み取って緊急度を判定し、担当者への振り分けまで自動で行うAIエージェントや、話しかけるような質問を投げるだけで根拠となる法令・文献・判例と要約をまとめて提示するAIリサーチサービス、過去の相談履歴や案件対応を横断的に検索し、関連する過去の対応を自動で提示するAIエージェントなど、契約審査に関連する業務のさまざまな場面に対応するサービスが登場しています。
AIを取り入れる際の注意点
生成AIを活用する場合は、AIが誤った情報を生成するリスク(ハルシネーション)を踏まえ、出力内容をそのまま採用せず、最終的な法的判断は人が行う必要があります。生成AIに限らず、AI搭載のSaaSやAIエージェントを活用する場合も、抽出結果や提案はあくまで判断の出発点として扱い、一次情報や専門家による確認を前提とすることが基本になります。また、一部の業務だけをAI化しても一定の時短効果はありますが、業務間の情報連携が分断されたままでは、非効率が完全には解消されない場合があります。
契約審査関連業務を効率化する具体的な方法
ここでは、前章で挙げた課題ごとに、より具体的な効率化の方法を紹介します。
① 「依頼が多く、優先順位がつけられない」の効率化
既存の体制・ツールを活用した効率化
依頼の受付窓口を1つに統一できれば理想的ですが、事業部門ごとに使い慣れたツールが異なるなどの理由で、実際には統一が難しいケースも珍しくありません。窓口はメール・チャット・フォームなど複数のまま残し、受け手側でそれらを1つの画面に集約して管理できるワークフロー管理ツールを使う方法もあります。この方法であれば、依頼者側に窓口の変更を求める必要がありません。ツールによっては、依頼内容の一次仕分けや優先度判定までAIが自動で行う機能を持つものもあります。
自社で仕組みを構築する場合は、Googleフォームなど無料で使えるオンラインフォームを用意し、回答をスプレッドシートに自動反映させる設定にしておくと、転記の手間がかかりません。管理項目としては、依頼日・依頼者/部署名・依頼内容・関連ファイル・希望納期・緊急度・対応ステータス・担当者を最低限そろえておくと、優先順位の判断や進捗確認がしやすくなります。
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AIを活用した効率化
依頼内容を生成AIに要約・分類させ、緊急度や対応の優先順位を判断する材料として活用する方法もあります。ただし、契約内容や取引先情報を含む依頼を社外のサービスに送信してよいかどうかは、自社の情報セキュリティ・データ取り扱いのルールを確認したうえで判断する必要があります。法務向けのAIサービスを活用すれば、定型的な依頼については、過去の回答例をもとに一次回答の下書きを生成AIに作成させ、内容の確認と送付のみで完結できる状態を目指すことも可能です。
② 「法令・ガイドラインのリサーチに時間がかかる」の効率化
既存の体制・ツールを活用した効率化
頻繁に参照する法令・ガイドラインは、自社の事業内容を踏まえて以下のような公的サイトへのリンク集としてドキュメント化しておくと、リサーチの起点を毎回探す手間がなくなります。
また、過去にリサーチした論点や結論は、案件ごとにフォルダを分けて論点・結論・参照リンクをメモとして保存したり、スプレッドシートで案件・論点・結論・参照先を一覧管理したりすることで、次回以降のリサーチ時間を短縮できます。また、WindowsやMac、クラウドストレージには、ファイルに案件名やキーワードなどの情報を付与できるメタデータ機能が備わっています。こうした機能を使うと、ファイルを開かずに検索・絞り込みができるようになります。
AIを活用した効率化
最近では、話しかけるような自然な質問を入力するだけで、関連する法令・書籍・判例を横断的に検索し、根拠を示しながら要約まで自動で生成してくれるリーガルリサーチ向けのAIサービスも登場しています。こうしたサービスを使えば、リサーチの出発点を探す時間そのものを大きく減らせます。
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③ 「審査観点が属人化して、若手メンバーの審査効率が悪い」の効率化
既存の体制・ツールを活用した効率化
契約類型ごとに確認すべき条項をチェックリストとして整理し、レビューの観点や過去の判断基準をドキュメント化して共有することが基本になります。ナレッジが属人化している組織の場合は、以下のような方法で、少しずつ形式知化していくとよいでしょう。
- レビュー時に、指摘理由を一言メモとして残すルールにする
- 若手からよく出る質問とその回答を、その都度FAQとして蓄積する
- 案件終了時の振り返りの場で、判断に迷った論点を棚卸しし、チェックリストに反映する
あわせて、経験の浅いメンバー向けにOJTや勉強会の機会を設けることで、審査観点の底上げにつなげられます。
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AIを活用した効率化
審査基準がExcelやWordなどの文書、または契約書のひな形という形で何らかに存在していれば、体系的に整理されていなくても、AIツールに読み込ませることでレビューに使える基準の形式に自動変換できるものがあります。文書にもひな形にも表れていない暗黙のノウハウ(判断の背景や妥協の理由など)については、ベテラン担当者へのヒアリングに加えて、オプトアウト設定にした生成AIを相手にベテラン担当者自身が考えを言語化しながら壁打ちする、という方法も有効です。AIを使った暗黙知の文書化・ナレッジ化の技術は今後も進化が見込まれる分野のため、最新の機能を都度確認しておくとよいでしょう。
④「法改正対応などによるひな形のメンテナンスが大変」の効率化
既存の体制・ツールを活用した効率化
ひな形の更新担当者と更新のタイミング(法改正時、年1回の定期点検時など)をあらかじめ決めておくと、都度「このひな形は最新か」を確認する手間を減らせます。あわせて、ひな形ごとに最終更新日・根拠となる法令やガイドライン・改定履歴を記載した管理台帳を用意しておくと、どのひな形をいつ見直したかが一目で分かり、確認漏れを防ぎやすくなります。改正情報の把握には、所管省庁や業界団体が発行するメールマガジン・ニュースレターを購読しておくと、能動的に調べに行かなくても最新情報が手元に届くようになります。また、改定後のひな形は必ずバージョンを更新したうえで一元管理し、古いバージョンを誤って使い続けることがないようにする運用も重要です。
AIを活用した効率化
汎用的な生成AIでも、AIエージェントを使えば自社に関連する法令・ガイドラインの改正情報を継続的に収集させ、ひな形の見直しが必要なタイミングを通知させることが可能です。改正内容によっては、影響を受ける条文の修正案を生成AIに下書きさせることもでき、担当者はその内容を確認・調整するだけで済むようになります。ひな形の新旧バージョンをAIに比較させて変更点を一覧化させれば、社内への周知や説明資料の作成にかかる手間も減らせます。
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⑤ 「締結後の契約書の所在が分からない」の効率化
既存の体制・ツールを活用した効率化
契約書の保管場所と命名ルールを統一したうえで、契約書名・相手方・契約類型・契約期間・更新期限・保管場所(フォルダパス等)・担当部署を台帳(Excel等)にまとめて管理することが効率化につながります。既存の契約書をすべて整理し直すのは負担が大きいため、まずは新規の契約書から統一ルールを適用し、過去分は契約更新のタイミングで順次移行していく進め方が現実的です。
AIを活用した効率化
契約書をアップロードすると、当事者・金額・契約期間などの契約情報を自動抽出し、検索可能な状態にできるAI契約管理ツールがあります。更新期限についても自動で管理・通知させることで、個別確認の手間を減らせます。
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⑥ 「過去の類似案件の対応を調べるのが大変」の効率化
既存の体制・ツールを活用した効率化
過去の相談内容や判断理由を、案件終了時の振り返りとして記録し、共有フォルダなどに蓄積していくことが効率化につながります。よくある相談内容はFAQとして整備しておくと、担当者間で聞き合う手間を減らせます。
AIを活用した効率化
過去の案件や契約書、相談履歴を、RAG(生成AIが社内に蓄積された過去のデータを検索し、その内容をもとに回答を作る仕組み)を活用したFAQツールに読み込ませておけば、担当者が自然な言葉で質問するだけで、関連する過去の相談内容や結論を回答として提示させることができます。似たような相談が来るたびに人に聞いて回ったり、ファイルを一件ずつ開いて確認したりする手間を減らせます。こうした仕組みは自社で一から開発する必要はなく、法務向けのAIツールやナレッジ検索SaaSの多くがRAGの機能をあらかじめ備えているため、少人数の法務組織でも導入のハードルは高くありません。
契約審査関連業務の効率化に関するよくある質問
契約審査の効率化は、何から着手すればいいですか?
過去の相談内容や判断理由といったナレッジの文書化から着手すると、後々の効果を実感しやすくなります。担当者の異動や退職で後任へ引き継ぎが必要になった際にも、蓄積されたナレッジがあれば対応がスムーズになります。受付窓口や依頼フォームなど、業務の入り口を整えるところから始めるのも、同様に着手しやすい方法です。一度にすべてを仕組み化しようとせず、業務ごとに小さく始めて効果を見ながら広げていく進め方が現実的です。
少人数・一人法務でも、契約審査を効率化できますか?
少人数の体制であるほど、相談できる相手が少なく、一人で判断を抱え込みやすいため、AIによる横断検索や下書き作成の効果を実感しやすいといえます。大掛かりな仕組み化よりも、受付フォームやひな形整備など、費用や工数をかけずに着手できる対策から始めやすい点も、少人数体制に向いています。
「LegalOn」で契約審査関連業務を一気通貫に効率化する
「LegalOn」は、依頼の受付・進行管理を担う「マターマネジメント」、属人化した審査基準をAIが整理する「レビュー」、常に法改正に対応した「LegalOnテンプレート」、契約書を一元管理する「コントラクトマネジメント」、社内外の情報を横断検索する「LegalOnアシスタント」を、一つのプラットフォーム上で提供しています。案件受付からナレッジ活用まで、情報を分断させずに効率化できることが特長です。
まとめ
契約審査に関連する非効率は、契約書のレビューそのものだけでなく、案件の受付・進捗管理、法令・判例のリサーチ、ひな形の整備、締結後の契約書管理、過去のナレッジ活用など、複数の業務にまたがって生じています。既存の体制を整える対策と、AIを取り入れる対策には、それぞれ異なる特性があります。両者の特性を踏まえたうえで、課題ごとに着手できるところから対策を進めていくことが、実務上の次の一歩になります。
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