契約書の訂正は当事者の合意が原則
契約書の訂正は、当事者間の合意によるのが原則です。当事者の片方が一方的に契約書の訂正を実施しても、相手方の同意がなければ、その訂正は効力を生じません。
また、相手方の名義を冒用して変更契約を作成すると「有印私文書偽造罪」、相手方に無断で契約金額などの条文上の文言を変更すると「有印私文書変造罪」に当たり、刑事罰が科される可能性があります。いずれも3ヵ月以上5年以下の拘禁刑が科されるので注意が必要です。契約書の訂正を行う際は、相手に必要性を説明し、合意を得たうえで実施しましょう。
契約書の訂正が発生するタイミングとは
契約書の訂正が必要となるタイミングは、次の2つに分類されます。
契約締結前の訂正
契約締結後の訂正
それぞれのタイミングで、どのような形で訂正を行うのか解説します。
契約締結前の訂正
当事者の調印(署名・押印・電子署名など)がまだ完了していない段階で訂正すべき箇所が判明したときは、相手方に連絡して訂正の必要性を説明しましょう。そのうえで、契約書のファイルを修正して相手方に確認を求めます。
訂正した内容を含めて当事者の合意が得られたら、調印へと移ります。調印後の訂正には手間がかかるので、調印前に誤りなどが含まれていないことを確認しましょう。
契約締結後の訂正
当事者の調印が完了した契約書に誤りが見つかった場合は、その契約書に訂正内容を書き込むか、または別途書面を締結して契約内容を変更します。
次の章では、契約締結後の訂正方法の詳細について図解付きで詳しく解説します。
契約書自体を訂正する方法(形式的で軽微な変更)
契約書に訂正内容を書き込む形での訂正は、誤りが形式的かつ軽微である場合などに用いられます。商慣習上、訂正印を使う方法と捨印を使う方法がよく見られます。
訂正印を使う訂正の仕方
捨印を使う訂正の仕方
具体的にどのように訂正するのか解説します。
訂正印を使う訂正の仕方【図解付き】
訂正印を使う場合は、訂正箇所に二重線を引いて正しい内容を記載し、その部分に訂正印を押します。
なお、下記の2パターンによって修正方法は異なります。
誤った文字を訂正するときは「訂正」
文字を追加するときは「加入(または追加)」
以下に例示します。
修正例①「訂正」
正)株式会社海山商事
誤)株式会社海産物商事
誤った記載の「産物」を二重線で消し、その上に「山」と記載します。これだけでもよいですが、削除した文字数と追加した文字数を「二字抹消(削除)、一字加入」と記載すると、訂正内容がより明確になります。
訂正箇所の付近に、当事者全員が訂正印を押します。訂正印は、契約書に押したものと同じ印鑑を用いましょう。当事者の合意によって訂正がなされたことを明確化するためです。
訂正印を押す場所は、訂正内容に対応していることがわかる場所とする必要があります。上記の例では、訂正文字数の記載の右側に訂正印を押しています。
修正例②
正)株式会社海山商事
誤)株式会社海商事
「海」と「商」の間にVを記載し、Vの上に「山 一字加入(または追加)」と追記し、当事者全員の印鑑を押します。
捨印を使う訂正の仕方【図解付き】
捨印は、契約書の余白にあらかじめ押しておく印鑑です。軽微な誤りが見つかった際には、契約書原本の保管者が訂正印として利用することを目的としています。捨印を押す場合は、契約書のすべてのページに押しましょう。
捨印を使った契約書の訂正は、次の手順で行います。
訂正箇所に二重線or追加のみならVを記入する
正しい内容を記載する
捨印の近くに「〇字削除〇字加入」など訂正文字数を記載する
なお、契約書の訂正作業に時間がかかって、他の業務に手が回らないと悩んでいるなら、法務特化型AIのLegalOnがおすすめです。契約書の自動レビューによって、修正や抜け落ちのアラートが表示されるため、訂正作業の時間を大幅に削減できます。また表記ゆれや条ズレも1クリックで修正できるため、忙しい法務の強力な味方です。ぜひご確認ください。
重要内容の訂正方法
契約の本質に関わる重要事項を訂正する場合は、変更契約書(変更覚書)を締結するのが一般的です。
変更契約書(変更覚書)は「一部変更契約」と「全面変更契約」の2つに大別されます。それぞれの記載事項と記載例を解説します。
一部変更契約による訂正
一部変更契約とは、現在の契約内容のうち、一部のみを変更する契約です。変更すべき箇所がそれほど多くないときに適しています。変更する旨が記載されていない事項については、原契約の規定の効力が維持されます。
一部変更契約には、以下のような事項を記載します。
【一部変更契約書に記載すべき事項】
契約の当事者名
変更する契約書(例:甲及び乙の間の〇年〇月〇日付〇〇契約書)
変更の内容(変更前の条文と変更後の条文を併記する)
変更の効力について(いつから効力が生じるのか、変更しない部分の効力など)
【一部変更契約書の記載例】
株式会社AAA(以下「甲」という。)と株式会社BBB(以下「乙」という。)は、甲及び乙の間の〇年〇月〇日付〇〇契約書(以下「原契約」という。)に関して、その一部を下記のとおり変更することに合意し、本契約(以下「本契約」という。)を締結した。
なお、本契約で用いる用語は、別途新たに定義する場合を除き、原契約における定義と同一の意味を有する。
第1条(原契約の変更)原契約第〇条を以下のように変更する。
(変更前)
(変更後)
第2条(変更の効力)本契約の効力は、本契約締結日より発生するものとする。
2.本契約に基づく原契約の変更は、本契約締結日より前に原契約に基づいて生じた甲乙間の権利義務その他の法律関係に対し、何らの影響を及ぼさない。
第3条(原契約の他の条項の有効性)本契約に定めのない事項については、原契約の各条項が引き続き有効に適用されるものとする。
第4条(合意管轄)本契約に関する一切の紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各自1通を保有する。
令和〇年〇月〇日
(甲)
東京都〇〇区〇〇町〇-〇
株式会社AAA
代表取締役 〇〇 〇〇
㊞
(乙)
東京都〇〇区〇〇町〇-〇
株式会社BBB
代表取締役 〇〇 〇〇
㊞
全面変更契約による訂正
全面変更契約は、契約内容を全面的に変更する契約です。変更すべき箇所が多い場合には、変更後の契約内容を一覧的に確認できるように、全面変更契約を締結する例がよく見られます。
全面変更契約では、前文で全面的な契約変更を行うことを明記したうえで、変更しない条項も含めた契約本文をすべて記載しなければなりません。全面変更契約を確認しただけでは、どの箇所をどのように変更したのかわからないので、従前の契約書との対照などが必要となります。
【全面変更契約書の記載例】
株式会社AAA(以下「甲」という。)と株式会社BBB(以下「乙」という。)は、甲及び乙の間の〇年〇月〇日付〇〇契約書(以下「原契約」という。)の内容を全面的に変更し、以下のとおり全面変更契約(以下「本契約」という。)を締結した。
第1条(原契約の全面変更)甲乙は、原契約の内容を別紙記載のとおりに全面的に変更することに合意する。
第2条(変更の効力)本契約の効力は、本契約締結日より発生するものとする。
2. 本契約に基づく原契約の変更は、本契約締結日より前に原契約に基づいて生じた甲乙間の権利義務その他の法律関係に対し、何らの影響を及ぼさない。
第3条(合意管轄)本契約に関する一切の紛争については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各自1通を保有する。
令和〇年〇月〇日
(甲)
東京都〇〇区〇〇町〇-〇
株式会社AAA
代表取締役 〇〇 〇〇
㊞
(乙)
東京都〇〇区〇〇町〇-〇
株式会社BBB
代表取締役 〇〇 〇〇
㊞
(別紙を添付する)
電子契約書の訂正の仕方
近年では、紙の契約書に代えて電子契約を締結する企業が増えてきています。
電子契約は、訂正印や捨印によって訂正することができません。したがって、訂正が軽微である場合も含めて、変更契約書(変更覚書)を締結するのが一般的です。原契約書と同様に、変更契約書(変更覚書)も電子契約で締結するのが便利でしょう。
変更契約書(変更覚書)の内容については、前章の解説を参照してください。
<関連記事>電子契約のやり方を解説!電子契約システム導入から契約締結までの流れを解説
<関連記事>電子署名法とは|電子契約導入のために知っておくべき法律を分かりやすく解説
契約書の訂正に関する注意点6選
契約書の訂正に関しては、特に次に挙げるポイントについて注意しましょう。
捨印の場合は勝手に訂正されないようコピーをとっておく
契約書自体を訂正するのは、ごく軽微な場合のみ
訂正印と捨印は調印に使用した印鑑と同じものを使用する
訂正印は契約当事者全員が押す必要がある
変更契約書(変更覚書)には、収入印紙の貼付が必要となることもある
相手方が訂正に応じないこともある
それぞれ詳しく解説します。
注意点① 捨印の場合は勝手に訂正されないようコピーをとっておく
相手方が保管する契約書原本に捨印を押すと、その捨印を相手方が悪用し、勝手に契約内容を変更されるリスクがあります。そのため、捨印は安易に押さないほうが無難です。
やむを得ず捨印を押す場合は、自分(自社)用にも別途原本を作成するか、または相手方が保管する原本の写し(コピー)をとっておきましょう。そうすれば、相手方が勝手に契約内容を変更した場合に反論することができます。
注意点② 契約書自体を訂正するのは、ごく軽微な場合のみ
先述のとおり、訂正印・捨印を使っての訂正は、あくまでもごく軽微な修正に限るべきです。
重要な契約内容を変更する場合は、当事者間で正式に合意したことを明確化するために変更契約書(変更覚書)を作成しましょう。
注意点③ 訂正印と捨印は調印に使用した印鑑と同じものを使用する
訂正印や捨印は、契約書の調印に使用したものと同じ印鑑を使います。権限ある者によって訂正がなされたことを明確化するためです。
実印を押すための手続きが面倒だからといって、担当者の印鑑などで済ませてはいけません。無権限者が勝手に契約書を訂正したと判断されるおそれがあるので、必ず調印時の印鑑を用いてください。
注意点④ 訂正印は契約当事者全員が押す必要がある
訂正印は、契約当事者が全員押す必要があります。当事者全員の合意によって訂正がなされたことを明確化するためです。
捨印を訂正印として用いる場合も同様です。すでに捨印を押している当事者に加えて、原本保管者も捨印の近くに訂正印を押しましょう。
注意点⑤ 変更契約書(変更覚書)には、収入印紙の貼付が必要となることもある
収入印紙の貼付を要した原契約を変更契約書(変更覚書)によって変更する場合、その内容によっては、変更契約書(変更覚書)にも収入印紙の貼付を要することがあります。
収入印紙の貼付を要する課税文書に該当するかどうかは、その変更契約に「重要な事項」が含まれているかどうかで判断されます。たとえば、以下のような場合には収入印紙の貼付を要する可能性があります。
契約金額(代金など)の額、支払期日、支払方法を変更する
売買契約や請負契約などの目的物の内容、数量、単価を変更する
請負契約の納期を変更する
契約期間を変更する
<関連記事>収入印紙とは?課税文書一覧と金額・購入場所・貼り方・消印ルールを徹底解説!
注意点⑥ 相手方が訂正に応じないこともある
契約書を訂正しようとしても、必ずしも相手方の同意が得られるとは限りません。誤字脱字など軽微なものであれば同意を得やすいですが、重要な内容を変更する場合には、同意してもらえない可能性があります。
契約書の訂正には、原則として相手方の同意が必要です。相手方に対して訂正の必要性を説明し、交渉しましょう。どうしても訂正に応じてもらえないときは、弁護士への相談を検討してください。
押印後の修正を防ぐ方法
契約書の訂正は当事者間の合意が必要なうえ、手続きも煩雑です。押印前の段階で契約書の内容を徹底的に確認し、訂正が必要となる事態を防ぎましょう。
押印前にリーガルチェック(法務レビュー)を実施する
契約書の内容を法的観点からチェックする「リーガルチェック」を押印前に実施することで、見落としがちなリスクや不利な条項、誤字脱字・条項番号のズレといった形式的なミスまで、まとめて洗い出すことができます。
以下の記事では、リーガルチェックを実施する際の主なチェックリストや注意点、社内担当者または外部の専門家と進める場合の具体的な流れ、実務でよく直面する課題とその解決策について、具体例を交えながらご紹介しています。ぜひご確認ください。
<関連記事>リーガルチェックとは?社内の進め方・弁護士への頼み方・チェック項目・費用まで完全ガイド
AIを活用したリーガルチェックで抜け漏れを防ぐ
人手によるチェックには限界があり、確認漏れはどうしても発生しがちです。そこで活用したいのが、法務特化型AI「LegalOn」です。契約書を自動でレビューし、修正すべき箇所や抜け漏れをアラートで通知するほか、表記ゆれや条ズレも1クリックで修正できます。押印前の段階で契約書の精度を大幅に高められるため、「訂正が必要な契約書で締結しない」という理想の実現をサポートします。
契約書の訂正に関するQ&A
最後に、契約書の訂正に関してよくある質問と回答を紹介します。
Q. 契約書に訂正できない箇所はある?
Q. 契約書の訂正ができない場合はある?
Q. 収入印紙が必要となる変更契約書とは?
Q. 重要な事項とは何ですか?
Q. 契約書の訂正に使用する印鑑は何でもいい?
Q. 訂正印はシャチハタ(ネーム印)でもいい?
Q. 訂正内容の記載や押印のスペースがない場合はどうすればいい?
Q. 訂正文字数の数え方は?
Q. 訂正印は双方ともに必要?
Q. 何度でも訂正は可能?
Q. 手間がかからない訂正方法はどれ?
それぞれ詳しく解説します。
Q. 契約書に訂正できない箇所はある?
契約書に訂正できない箇所はありません。ただし、訂正印・捨印による訂正はごく軽微なものに限るべきです。重要な事項を訂正する場合は、当事者の合意内容を明確化するために変更契約書(変更覚書)を締結しましょう。
Q. 契約書の訂正ができない場合はある?
相手方の同意が得られないと、契約書の訂正はできません。相手方に対して訂正の必要性を説明し、同意を得られるように努めましょう。
Q. 収入印紙が必要となる変更契約書とは?
原契約が収入印紙の貼付を要する課税文書に当たり、かつ変更契約書に「重要な事項」が含まれている場合は、課税文書の種類および契約金額に応じた額の収入印紙を貼る必要があります。
たとえば、売買契約や請負契約の目的物や契約金額を変更する場合、請負契約の納期を変更する場合などには、変更契約書に収入印紙を貼らなければなりません。
ただし、変更契約書を電子契約で締結する場合は、収入印紙の貼付は不要です。
<関連記事>電子契約では収入印紙がいらないって本当?その理由・根拠や注意点を徹底解説
Q. 重要な事項とは何ですか?
「重要な事項」については、印紙税法基本通達により、文書の種類ごとに一覧表が示されています。
Q. 契約書の訂正に使用する印鑑は何でもいい?
原則として、契約書の調印に用いた印鑑と同じ印鑑を使うことが必要です。
契約書の調印に用いた印鑑と異なる印鑑を使うと、無権限者が勝手に訂正したことを疑われるなど、相手方とのトラブルに発展するおそれがあります。
Q. 訂正印はシャチハタ(ネーム印)でもいい?
シャチハタ(ネーム印)は、印章がどこでも入手可能であり、改ざん等に使われやすいため使用すべきではありません。
契約書への調印、訂正印、捨印のいずれについても、シャチハタ(ネーム印)の使用は控えましょう。
Q. 訂正内容の記載や押印のスペースがない場合はどうすればいい?
訂正箇所を矢印で示すなどしたうえで、余白に訂正内容を記載し、その付近に訂正印を押してください。
訂正箇所と訂正内容がわかるようにしておけば問題ありません。
Q. 訂正文字数の数え方は?
〇字抹消(削除)・〇字加入(追加)などと文字数を書く場合には、「¥」「。」「,」などの記号も文字数にカウントしてください。
Q. 訂正印は双方ともに必要?
訂正印は契約当事者全員分が必要です。
訂正した側もそれを確認する側も、双方ともに訂正印を押さなければなりません。誰かが勝手に訂正したのではなく、全員の合意で訂正したことを明確化するためです。
Q. 何度でも訂正は可能?
訂正に回数の制限はなく、何度でも訂正はできます。同じやり方で何度訂正しても問題はありません。
ただし、どこを直したのか、どう訂正したのかがわからなくなるとトラブルの原因となるので、そうならないように訂正方法を工夫しましょう。
契約書自体を訂正するのではなく、変更契約書(変更覚書)を締結することも検討すべきです。
Q. 手間がかからない訂正方法はどれ?
捨印を用いて訂正する方法が最も簡単ですが、捨印は相手に悪用されるリスクもあるので注意が必要です。訂正内容をしっかり確認したいなら、捨印を押さずに訂正印や変更契約書(変更覚書)で対応したほうがよいでしょう。
訂正の手間を減らしたいのであれば、原契約の作成・締結時点で、しっかりと確認しておくことが大切です。法務AIツールや弁護士などの専門家をうまく活用しながら、問題がないかしっかりとチェックしましょう。
「LegalOn」で抜け漏れない契約書レビューを実現
契約書の訂正方法を解説してきましたが、最も望ましいのは「そもそも訂正の必要がない契約書を締結すること」です。
しかし、ミスや抜け漏れなく契約書を作成するのは非常に大変な作業で、人間の目だけで確認するのは限界があります。LegalOnは、AIテクノロジーを駆使し、抜け漏れない契約書レビューの実現をサポートする法務特化型AIです。契約書レビューを適切に行うことができるかどうか不安な方は、ぜひ一度導入をご検討されてみてはいかがでしょうか。