クラウドによる文書管理の仕組みとセキュリティ
クラウドによる契約書管理の解説をする前に、クラウド管理の基本的な概念と、最も懸念されがちなセキュリティ面の安全性について解説します。
クラウド管理とオンプレミス・ローカル管理の違い
クラウド管理とは、自社内に物理的なサーバーを設置したり(オンプレミス)、個人のPC(ローカル環境)にファイルを保存したりするのではなく、インターネット上の安全なスペース(クラウド環境)にデータを保管する仕組みを指します。
従来のオンプレミスやローカル管理では、社内ネットワークに接続された特定のPCからしかファイルにアクセスできない、あるいはサーバーのメンテナンス費用や人的負荷が自社に重くのしかかるといった課題がありました。一方でクラウド管理を活用すれば、適切なアクセス権限を持つ担当者であれば、オフィス外のテレワーク先や外出先からも、セキュリティを保ったまま必要な契約書データにアクセスできます。
セキュリティ的に「安全」と言えるのか?
「インターネット上に重要な契約書を保管するのは、社内サーバーよりも危険ではないか」という懸念を持つ方もいるかもしれません。しかし、最新のクラウドサービスは、一般的な社内ローカル環境よりもはるかに強固なセキュリティを担保しているケースがほとんどです。
物理的なリスクの観点では、個人PCの紛失や盗難による情報漏洩リスク、また社内サーバーが災害等で物理的に破損・消失するリスクを大幅に低減できます。データは厳重なセキュリティ対策が施されたデータセンターで管理されているためです。
システム的なリスクに対しても、通信および保管データの暗号化、二段階認証、アクセス制限など、最新のセキュリティ技術が標準的に組み込まれています。自社で同等レベルの防御壁を構築・維持するコストやリソースを考慮すると、専門のクラウドサービスを利用する方が、結果として高い安全性を確保しやすいと考えられます。
クラウド保管の選択肢1:汎用クラウドストレージ
クラウド化を検討する際、多くの企業が最初にイメージするのが、Google Driveなどの日常業務でも広く使われている一般的な汎用クラウドストレージや共有フォルダです。ここでは、その運用イメージと現実的な限界について解説します。
汎用クラウドストレージでできること
汎用クラウドストレージを契約書管理に活用する場合、主に以下の運用が可能です。
- 契約書(PDFなど)の格納・保存とフォルダ分け:「取引先別」「締結年別」といったフォルダを作成し、スキャンしたPDFや電子契約のファイルを格納できます。
- キーワード検索:ファイル名や、テキストデータ化されているPDFであれば、ファイル内の文字列をキーワード検索して探すことができます。
- アカウント単位でのアクセス権付与:ユーザーや部署ごとに「閲覧のみ」「編集可能」といったアクセス権を設定し、関係者以外への情報露出を制限できます。
初期費用を抑えながらクラウド保管を進める最初の一歩として、有効な選択肢といえます。
汎用クラウドストレージで管理する場合の「限界」
一方、年間の契約書数が一定数を超える企業においては、汎用ストレージの運用だけでガバナンスや効率性を維持することに限界が生じる可能性があります。主な注意点は以下の3点です。
- 手動によるExcel台帳作成が必要:汎用ストレージはあくまで「ファイルを保管する箱」に過ぎません。フォルダにファイルを格納するだけでは、契約日、更新日、取引金額といった重要情報をシステム側で自動的にリスト化することはできません。従来通り手作業でExcelなどの台帳に入力・更新し続ける必要があり、手入力の手間とミスのリスクが残ります。
- 期限管理の難しさと見落としリスク:汎用ストレージやツールの中にはリマインダー機能を持つものもありますが、いずれも担当者が日付を手動で設定する必要があります。契約書の本文から満了日や更新拒絶期限日を自動で読み取り、期限を逆算して通知するような機能は基本的には備わっていません。担当者がカレンダーツールに手動でリマインダーを設定するなどの個別運用に頼らざるを得ず、見落としのリスクが残ります。結果として、不要な自動更新による費用の発生や、解約機会の逸失といったリスクが生じるおそれがあります。
- スキャンデータの検索性の低さ:過去の紙の契約書を複合機などでスキャンしただけのPDF(画像データ)の場合、汎用ストレージ上ではファイル名しか検索に引っかかりません。契約書の中身にある具体的な条文や文言から検索してヒットさせることができないため、目当ての契約書を探す際に一つひとつファイルを開いて確認する手作業が発生してしまいます。
- 電子帳簿保存法への対応を自力で設計する必要がある:電子取引で授受した契約書など、電子帳簿保存法の対象となる書類については、改ざん防止・検索性確保などの要件を満たす必要があります。汎用ストレージでも要件に対応すること自体は可能ですが、対応できるプランの選定、フォルダ命名規則の設計、社内運用規程の整備など、要件を満たすための仕組みを担当者が構築しなければなりません。
クラウド保管の選択肢2:契約書管理に特化したクラウドサービス
汎用ストレージの限界を克服し、法務・総務の実務を強力にバックアップするために設計されたのが「契約書管理に特化した専用クラウドサービス」です。導入によって得られる具体的なメリットを4つの機能軸から解説します。
1. AIを活用した「自動台帳作成機能」
専用システムでは、締結済みの契約書PDFをアップロードすると、AIが本文内から取引先名、契約開始日、終了日、取引金額、契約類型などの重要情報を自動的に抽出します(抽出結果は内容を確認の上、必要に応じて手動で編集することもできます)。これまで担当者が目視で確認し手入力していた台帳作成業務が自動化され、入力工数を大幅に削減できます。転記ミスなどのヒューマンエラーの削減にもつながります。
2. 更新漏れを防ぐ「自動アラート通知」
契約書の終了期限や、自動更新ありの契約における「更新拒絶期限日」をシステムが自動的に管理します。解約予告期日や契約満了のタイミングが近づくと、あらかじめ設定した担当者宛に自動的にアラートが通知されます。これにより、現場の属人化的なリマインダー運用を排除し、不要な契約延長や更新手続きの失念によるリスクを大幅に低減できます。
3. スキャンされた紙の契約書も探せる「OCR・全文検索」
専用システムには、高度なOCR(光学文字認識)機能が標準搭載されています。紙の契約書を複合機でスキャンしただけの画像化されたPDFであっても、文字情報を高度にテキスト化(OCR処理)するため、ファイル名だけでなく「契約書内の特定の条文やキーワード」から一瞬で目的のファイルを検索・ヒットさせることができます。横断的な全文検索が可能になることで、過去の契約ナレッジを実務に素早く活かせるようになります。
4. 組織に合わせた「厳格なアクセス権限と操作ログ管理」
コーポレートガバナンスの観点から、非常に重要なのがセキュリティと操作ログの管理です。部署、役職、プロジェクトといった組織の構造に合わせて、フォルダ閲覧制限などのアクセス権限を柔軟に設定できます。さらに、「誰がいつファイルを開いたか、編集したか」という履歴(ログ)がすべてシステム内に残るため、不正アクセスや情報漏洩に対する抑止力となり、ガバナンスが大幅に向上します。
【比較】汎用ストレージ対契約書専用クラウドシステム
自社にはどちらの管理方法が適しているのか、予算、契約数、運用負荷の観点から一目で判断できるよう、特徴を以下にまとめました。
汎用クラウドストレージ:スモールスタートに向く選択肢
- 主な用途:ファイル全般の共有・共同編集・保管
- 導入コスト:無料〜月数百円程度
- 台帳作成:手動(Excelなどとの並行運用が必要)
- アラート通知:なし(カレンダーツールへの手動設定が必要)
- 検索性:ファイル名検索が中心(OCR未対応の場合、画像PDF内は検索不可)
こんな企業に向いています
- 年間の契約書数が数十件程度
- まずはコストをかけずにクラウド化を試したい
契約書専用クラウドシステム:管理の手間を根本から解消する選択肢
- 主な用途:契約書の作成から締結・台帳化・期限管理まで一元管理
- 導入コスト:月数万円〜(機能や利用人数による)
- 台帳作成:AIがアップロード時に自動作成
- アラート通知:標準搭載(期限前に自動メール通知)
- 検索性:画像PDF内のテキストを含む全文検索に対応
こんな企業に向いています
- 年間の契約書数が数百件以上
- 期限管理ミスや検索の手間を根本から解消したい
どちらを選ぶかの判断基準
既存の運用を大きく変えずにコストを抑えてスモールスタートしたい場合は、汎用ストレージが現実的な選択肢です。一方、台帳作成・期限管理・全文検索をまとめて自動化し、業務効率化とリーガルリスクの低減を同時に達成したい場合は、専用システムの導入が推奨されます。
クラウドでの契約書管理を成功させるための選定・検討ポイント
自社に合うツールや管理方法を決定するにあたり、事前に確認しておくべき4つの重要なチェックポイントを解説します。
1. 既存の電子契約ツールとの連携性
自社ですでに電子契約サービスを導入している、あるいは導入予定の場合、それらのツールとの「連携性」は非常に重要です。電子契約で締結したデータと、紙で締結してスキャンしたデータを別々の場所に保管していては、二重管理による非効率が生じます。締結後の契約書を自動で管理システム側に取り込めるシステムを選定することで、シームレスな一元管理が可能となります。
2. 過去の「紙の契約書」のデータ化支援(スキャン代行)の有無
クラウド化を推進する上で最大のボトルネックになりやすいのが、過去に締結した大量の「紙の契約書」のデータ化作業です。自社の限られたリソースだけで、大量の紙契約書をバインダーから取り出してスキャンし、台帳へ手入力していくのは現実的ではありません。ベンダー側で書類の回収からスキャン、台帳入力までを一括して任せられる「スキャン代行」オプションやサポート体制が用意されているかを確認しておくと、導入初期の現場負荷を大幅に軽減できます。
3. 自社のセキュリティガイドラインのクリア
社内のIT部門やセキュリティ担当者が求める基準を満たしているか、事前にガイドラインを確認する必要があります。シングルサインオン(SSO)連携が可能か、アクセス可能なIPアドレスの制限機能があるか、各種セキュリティ認証を取得しているデータセンターを利用しているかなどは、社内審査をスムーズに通過するための重要な基準となるケースが多いと考えられます。
4. 導入後のサポート(カスタマーサクセス)体制
新しいシステムを導入しても、法務部門または一部の管理者しか使いこなせなければ意味がありません。契約書を実際に作成する各事業部の現場メンバーまで、システムを迷わず使えるようにするためのサポート(カスタマーサクセス)体制が重要です。導入時に社内説明会を実施してくれるか、定着化に向けた支援が用意されているかを事前に確認することが、新システムの運用定着の鍵となります。
クラウド契約書管理へ移行するための5つのステップ
ここでは、実際の移行手順を5つのステップに分けてご紹介します。
ステップ1:現在の契約書とExcel台帳の棚卸し
現在社内にどのような契約書が何件あるのか、Excelの台帳と実際の保管ファイルの間にズレがないかを棚卸しします。有効期間中の「生きている契約」と、すでに終了した「過去の契約」を分類することが最初のステップです。
ステップ2:汎用ストレージか専用システムかの決定
棚卸しの結果、年間の契約書ボリュームや更新管理にかかる実際の工数、予算などを勘案し、自社が汎用ストレージで行くか、専用システムで行くかの方向性を決定します。
ステップ3:社内ルール(フォルダの分類・閲覧権限)の策定
クラウド上に構築するフォルダの分類方法や、部署ごとの閲覧権限の付与ルール(ガバナンス設計)を策定します。現場の使いやすさとセキュリティのバランスを考慮してルールを策定してください。
ステップ4:過去契約書のアップロードとデータ化(スキャン代行の活用検討)
新体制での運用を開始するため、過去の契約書データをクラウドへアップロードします。紙の契約書が大量にある場合は、前述したスキャン代行サービスの活用をこの段階で本格的に検討・実行します。
ステップ5:社内向け説明会の実施と新ルールの定着化
システムの準備が整ったら、全社向けまたは関係部署向けに説明会を実施し、新しい格納ルールや新ルールの定着化を図ります。導入後も定期的に運用状況をチェックし、現場への定着を支援します。
「LegalOn」が実現するAI契約書管理
「LegalOn」の「コントラクトマネジメント」モジュールでは、締結済みの契約書(PDFファイル)をアップロードして管理できます。契約書情報として、取引先名・契約期間・取引金額などの項目についてAIによる抽出や手動補正を活用でき、契約情報の管理を効率化します。
また、自動更新契約の更新拒絶期限日や契約終了日を管理でき、期限が近づいた契約書については毎月1日の通知メールなどによる期限通知機能を利用できます。
さらに、契約書の横断検索や締結版契約書一覧のExcel出力機能を備えており、契約情報の検索・管理業務を支援します。
まとめ
従来のExcelによる契約書管理からクラウド管理へ移行することは、業務スピードの向上だけでなく、更新漏れや紛失といった重大なリーガルリスクを大幅に低減できる、重要なガバナンス施策といえます。
自社の契約書ボリュームや予算、現状の運用負荷に合わせて、「まずはコストを抑えて汎用ストレージでのスモールスタート」にするか、あるいは「専用システムの導入」に踏み切って台帳作成から期限管理までを根本から自動化するか、まずは現在の契約書件数や期限管理の実態を棚卸しし、自社に合う管理方法の検討から始めてみてください。詳細な機能比較や導入事例は「LegalOn」の製品資料でご確認いただけます。

