1 中国
1.1 準拠法条項
日本側としては日本法準拠とするのが望ましい場合もありますが、相手方中国企業より他の条項の譲歩を引き出すために中国法準拠を選択することもあります。
1.2 紛争解決条項(裁判所)
中国法準拠の場合、中国の裁判所を管轄裁判所とすることが一般的です。
1.3 紛争解決条項(仲裁)
日本側としては日本法準拠、JCAA(日本商事仲裁協会)仲裁とするのが望ましい場合もありますが、相手方中国企業より他の条項の譲歩を引き出すために、中国法準拠、CIETAC(中国国際経済貿易仲裁委員会)仲裁を選択することもあります。中国の国際仲裁機関は、証拠に基づく公平中立な判断を行っています。
1.4 実務上のポイント
相手方との交渉力のバランスや、強制執行の実効性を考慮した上で、準拠法・紛争解決条項を選択する必要があります。
2 台湾
2.1 準拠法条項
主な取引が台湾で行われる場合、準拠法を台湾法(中華民国法)とすることが一般的です。
2.2 紛争解決条項(裁判所)
台湾の地方裁判所を第一審の専属的合意管轄地方裁判所として定めるのが一般的です。
2.3 紛争解決条項(仲裁)
台湾法準拠の場合、台湾の仲裁機関を選択することも可能です。
3 韓国
3.1 準拠法条項
主な取引が韓国で行われる場合、準拠法を韓国法とすることが一般的です。
3.2 紛争解決条項(裁判所)
専属的合意管轄条項を設けることが可能で、国内取引ではソウル中央地方裁判所を紛争解決機関として選択することが一般的です。
3.3 紛争解決条項(仲裁)
国際取引ではKCAB(韓国商事仲裁院)を紛争解決機関として選択することも多く、KCABの仲裁判断はニューヨーク条約に基づき国際的に執行可能です。取引規模や紛争性に応じて、裁判・仲裁を選択することがあります。
3.4 その他の重要事項:差止・仮処分条項
韓国では、営業秘密侵害に対して差止請求(仮処分を含む。)及び損害賠償が可能です。裁判所は仮処分を柔軟に認める傾向があるため、契約書には差止・仮処分条項を明記し、違反行為の差止・特定履行を求められるようにしておくことが実務上重要です。
4 シンガポール
4.1 準拠法条項
シンガポール国内企業同士だけでなく、日本企業・シンガポール企業間においても、シンガポール法を準拠法として選択することが一般的です。ただし、シンガポール法ではペナルティ条項が無効と評価されるリスクがあるため、日本法を準拠法として選択することもあります。
4.2 紛争解決条項(裁判所)
シンガポールの裁判所を紛争解決機関として選択することが一般的です。日本企業・シンガポール企業間で準拠法を日本法として選択する場合に、日本の裁判所を紛争解決機関として選択することもあります。
4.3 紛争解決条項(仲裁)
シンガポールの仲裁機関(SIAC等)を紛争解決機関として選択することが一般的です。日本企業・シンガポール企業間の取引において準拠法を日本法として選択する場合には、日本の仲裁機関(JCAA等)を紛争解決機関として選択することもあります。
4.4 その他の重要事項:差止条項
契約違反があった場合、金銭賠償が原則であり、法律・契約に特段の定めがない限り、相手方に差止請求及び特定履行請求をすることが認められない可能性があります。そのため、契約書に義務違反行為の差止請求及び特定履行請求をすることができる条項を設ける必要があります。
5 タイ
5.1 準拠法条項
タイ国内企業同士の契約の場合、海外の法律ではなくタイ法を準拠法として選択することが一般的です。日本企業・タイ企業間の契約の場合、日本企業の交渉力が強い場合は日本法を準拠法、日本の仲裁機関を紛争解決機関として選択することが一般的です。一方、タイ企業の交渉力が強い場合は、タイ法を準拠法とすることが一般的です。
5.2 紛争解決条項(裁判所)
タイ国内企業同士の契約書の場合、タイの民事訴訟法に従い、被告の住所地を管轄する裁判所が管轄裁判所となり、契約書において専属的合意管轄を定めていても当該規定は無効となります。
日本企業・タイ企業間の契約の場合、タイは2005年の「国際裁判管轄の合意に関するハーグ条約」及び2019年の「外国判決の承認及び執行に関するハーグ条約」のいずれにも加盟しておらず、民事訴訟法上、外国判決の執行に関する規定がありません。そのため、日本企業・タイ企業間の契約の場合には、下記5・3記載の対応が採られます。
5.3 紛争解決条項(仲裁)
上記5・2記載のとおり、日本の裁判所の判決をもってタイ国内で強制執行を行うことができません。
したがって、日本企業・タイ企業間の契約の場合、日本やタイ、シンガポールなどにある仲裁機関を紛争解決機関として選択することが一般的です。
5.4 実務上のポイント
タイとの取引では、外国判決の執行ができないため、仲裁条項の設定が極めて重要です。
6 ベトナム
6.1 準拠法条項
ベトナム国内企業同士の契約の場合、ベトナム法を準拠法として選択することが一般的です。
日本企業・ベトナム企業間の契約の場合、VIAC(ベトナム国際仲裁センター)を紛争解決機関として選択することが多いため(下記6.3参照)、手続きの円滑性の観点からベトナム法を選択することが多いです。他方で、日本法を準拠法として、専属的合意管轄で日本の地方裁判所を選択することもあります。
6.2 紛争解決条項(裁判所)
ベトナム法を準拠法として選択した場合、ベトナムの地方裁判所を紛争解決機関として選択することが一般的です。ただし、言語の問題等があるため、日本企業がベトナムの地方裁判所を紛争解決機関として選択する例は極めて少ないです。そのため、日本企業・ベトナム企業間の契約の場合、下記6.3の対応が採られることが一般的です。
6.3 紛争解決条項(仲裁)
ベトナム法を準拠法として選択した場合、VIAC(ベトナム国際仲裁センター)を紛争解決機関として選択することが一般的です。他国の仲裁機関(SIAC等)を紛争解決機関として選択することもありますが、ベトナム国内での強制執行の際に外国仲裁判断の承認のプロセスがあり、承認されない例も散見されます。
6.4 その他の重要事項:執行可能性の課題
ベトナムにおいて、差止・仮処分が認められることはほとんどありません。相手方による義務違反に対して損害を請求する当事者の立場から、契約書において反訴権や相殺権といった反対債権を確保する条項を含めることがあります。
7 インドネシア
7.1 準拠法条項
インドネシア国内企業同士の契約の場合、インドネシア法を準拠法として選択することが一般的です。
日本企業・インドネシア企業間の契約の場合、交渉力に応じて日本法を準拠法とすることもありますが、紛争解決条項でインドネシア裁判所を選択した場合は、インドネシア法を選択することが一般的です。
7.2 紛争解決条項(裁判所)
インドネシア同士の契約書の場合、インドネシアの裁判所を紛争解決機関として選択することが一般的です。
また、タイと同様に、日本の裁判所の判決をもってインドネシア国内で強制執行を行うことができません。そのため、日本企業・インドネシア企業間の契約の場合、下記7.3の対応が採られることが一般的です。
7.3 紛争解決条項(仲裁)
日本企業・インドネシア企業間の契約の場合、SIACを紛争解決機関として選択することが一般的です。
7.4 その他の重要事項:インドネシア民法1266条・1267条の適用除外条項
インドネシア民法1266条・1267条により、契約解除の際に裁判所の承認が必要となることが原則です。実務上は同条の適用を明示的に除外する条項を契約書に追加することが一般的です。
8 法務AI「LegalOn」による海外取引のリスク管理
アジア各国との契約において、準拠法・紛争解決条項を適切に定めることは非常に重要です。世界水準の法務AI「LegalOn」は、日本語・英語をはじめ30以上の言語に対応し、契約書の翻訳や契約書情報の言語設定が可能。また、日本語のプレイブックを利用して多言語の契約書のAIレビューを実行、修正文案も多言語で作成することができます。紛争解決条項の抜け漏れや、翻訳によるニュアンスの差異を迅速に検知することで、海外取引における法的リスクを最小限に抑えることが可能です。
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9 おわりに
アジア各国との取引において、準拠法・紛争解決条項は単なる形式条項ではなく、契約の実効性を担保する生命線です。各国の法制度や執行環境を正確に理解し、取引の実態に即した適切な条項を設定することが、グローバルビジネスにおけるリスク管理の要諦となります。
本稿で解説した各国の特徴を踏まえ、自社の取引実態や相手方との関係性を総合的に勘案した上で、最適な準拠法・紛争解決条項を選択されることが推奨されます。
(執筆日:2026年2月)※掲載内容は執筆当時のものです。
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