1. なぜ今、業務委託契約書・発注書の見直しが必要なのか
フリーランス法の施行から1年以上が経過した今、なぜ再び「見直し」が推奨されるのでしょうか。そこには、当局の取り締まり姿勢の変化と、適用対象企業の想定以上の広さという2つの実務的な背景があります。
フリーランス法施行後、当局による指導・是正勧告が本格化
2026年2月、公正取引委員会はフリーランス法違反を理由として、大手電力株式会社に対して勧告および実名公表を行いました。同社の違反事実は、弁護士・税理士・医師などに業務を発注するに当たり、取引条件を書面または電磁的記録で明示しなかったこと(=いわゆる「3条通知」義務違反)、および60日以内の支払期日を定めて報酬を適切に支払わなかったことです。
本件は、大手インフラ企業に対する勧告事例であり、大企業の法務・購買部門に対して強烈な警鐘を鳴らすこととなりました。 (公正取引委員会,「中部電力株式会社に対する勧告について」(2026年2月27日公示))
令和7年度までに、同法違反によって勧告および企業名の公表がなされた事案は10件です。違反またはそのおそれのある行為に対する指導も含めると、合計1693件につき規制当局による措置が講じられています。(公正取引委員会,「(令和8年6月10日)令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況及びフリーランスに係る取引の適正化に向けた取組」(2026年6月10日公示)
企業の社会的信用(レピュテーション)を維持し、意図せぬ法令違反を防ぐためにも、現行の業務フローと書面フォーマットに不備がないか、今一度点検しておくことが推奨されます。
フリーランス法の概要と、適用対象となる「特定業務委託事業者」の定義
フリーランス法は、個人事業者(特定受託事業者)の「取引の適正化」と「就業環境の整備」を目的とした法律です。フリーランスなどに対して業務を発注する会社などは「特定業務委託事業者」に当たり、フリーランス法の規定を遵守しなければなりません。
「特定受託事業者」とは、業務を受託する事業者のうち、次のいずれかに該当する者をいいます。
特定受託事業者の要件
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、代表者1名以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの
特定受託事業者に対して業務委託をする事業者のうち、次のいずれかに該当する者は「特定業務委託事業者」に当たります。
特定業務委託事業者の要件
- 個人であって、従業員を使用するもの
- 法人であって、2名以上の役員があり、または従業員を使用するもの
エンジニア、デザイナー、ライター、イラストレーターといった職種のほか、個人の弁護士、税理士、社労士、経営コンサルタントといった専門職への業務委託も広くフリーランス法の対象に含まれます。相手がプロフェッショナルであっても、従業員を雇用していない個人であれば、自社がフリーランス法上の義務を負うことを理解しておく必要があります。
2. フリーランス法に準拠する「契約書・発注書」の記載要件
フリーランスへの業務委託において、基本契約と個別契約(発注書)を組み合わせて発注する場合、取引ごとにいわゆる「3条通知」を行わなければなりません。本章では、3条通知による具体的な明示事項と、自社のひな形に潜むリスクの点検方法を解説します。
個別契約(発注書)の必須項目
いわゆる3条通知は、「フリーランス法第3条」が根拠となるためこう呼ばれます。3条通知では、以下の事項などを「直ちに」書面または電磁的方法(メールなど)で明示しなければならないと定められています。
- 特定委託事業者(発注者)の商号、氏名、名称など
- 特定受託事業者(受注者/フリーランス)の商号、氏名、名称
- 業務委託をした日(発注日)
- 特定受託事業者の給付の内容(業務の具体的内容、成果物の仕様など)
- 給付を受領し、または役務の提供を受ける期日(納期・役務提供日など)
- 給付を受領し、または役務の提供を受ける場所(納品先・作業場所など)
- 検査を完了する期日(検査を行う場合のみ、明確な日程を記載)
- 報酬の額(具体的な金額、または算定方法)
- 報酬の支払期日
これらのうち、いずれか1つでも漏れている場合、その時点で3条通知義務違反と判断されるリスクがあります。
既存のひな形における注意点|「遅滞なく検査する」という表現の違法性
企業が用いている契約書や発注書のひな形において、しばしば以下のような表現が見られます。
[記載例(違反リスクあり)]
「甲(発注者)は、乙(フリーランス)から成果物の納品を受けたときは、遅滞なくこれを検査するものとする。」
実は、この「遅滞なく」という表現は、フリーランス法上違法とみなされる可能性が高い表現です。 フリーランス法における「検査を完了する期日」は、受託者に対して支払期日までのスケジュールを予測可能にするため、具体的な日付または客観的に確定できる期間(例:「納品日の翌日から起算して10日以内」など)として明示しなければなりません。
[記載例(適法)]
「甲は、乙から成果物の納品を受けたときは、当該納品日の翌日から起算して10日以内にその検査を完了するものとする。」
このように、具体的な期限を数値で特定し、いつまでに合否を判定するのかをクリアにする書き換えが必要です。
3. 「報酬支払条項」の書き方と注意点
フリーランス法では、報酬の支払期日は「給付を受領した日(または役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間内」で定めなければなりません。報酬支払条項は特にトラブルになりやすく、当局の重点調査項目でもあります。
「成果物受領日」を起算点にする契約条文の書き方
自社の締め日の都合や請求フローを優先した以下の条文は、フリーランス法違反となるリスクがあります。
[記載例(違反リスクあり)]
「報酬の支払期日は、乙から請求書を受領した日の属する月の翌月末日とする。」
この書き方の場合、仮に受注者側の事情や手違いで請求書の提出が遅れた場合、実際の「納品日」から「支払日」までの期間が60日を超えてしまう可能性があります。 フリーランス法では、起算点はあくまで「成果物の受領日」または「役務提供の完了日」と定められており、受注者の請求書提出の有無に関わらず、受領日から60日以内のできる限り短い期間内に支払う必要があります。
[記載例(適法)]
「甲は、乙の給付を受領した日(役務の提供を完了した日)の属する月の翌月末日(ただし、当該支払期日が受領日から起算して60日を超える場合は、受領日から60日以内の日)までに、報酬を支払うものとする。」
このように、受領日を起算点とした上で、必ず60日以内に収まるような表現が実務上推奨されます。
振込手数料をフリーランス側に負担させる規定は違法
フリーランス法や取適法(中小受託取引適正化法。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)では、受注者(フリーランスなど)側の責めに帰すべき事由がないのに、発注者側が一方的に報酬を減額することを禁止しています。
報酬の減額の禁止との関係では、振込手数料の取り扱いに注意が必要です。受注者側との合意の有無にかかわらず、振込手数料を受注者に負担させることは報酬の減額に該当し、フリーランス法違反や取適法違反となります。
契約書に以下のような文言が残っている場合は、速やかに見直しを行いましょう。
[記載例(違反リスクあり)]
「本取引に伴う振込手数料その他支払にかかる費用は、乙(受託者)の負担とする。」
参考:(公正取引委員会,「フリーランス・事業者間取引適正化等法に関するQ&A(改定版・Q78等)」)
4. 「検収・仕様変更」条項に関する注意点
フリーランスに対する発注を行った後で、その内容を一方的に変更してやり直しを指示したり、突然発注をキャンセルしたりすることは、フリーランス法違反となるおそれがあります。
一方的な仕様変更ややり直しを認める規定
契約書に「甲は必要に応じて、乙の同意なく仕様を変更できる」や「乙は甲の指示があれば無償で仕様を修正する」といった、発注者側に圧倒的に有利な規定を設けている場合、それはフリーランス法で禁止されている「返品(5条1項3号)」や「給付のやり直し(法5条2項2号)」に該当する可能性があります。
発注側の理由による一方的な仕様変更や、一度検収をクリアした後の追加対応について、フリーランスに無償での作業などを強いることは認められません。仕様変更を行う場合は、適切な対価を提示する必要があります。
5. 契約書・発注書の「フリーランス新法対応」を効率化する「LegalOn」の活用
ここまで解説した契約書・発注書の点検項目は多岐にわたり、自社のひな形だけでなく、過去の個別契約や相手方から提示された契約書すべてを法務担当者が手作業でくまなく検証するのには限界があります。
こうした業務負荷とリスクを低減するために、契約書レビューや法令遵守チェックを活用した効率化が考えられます。例えば、「LegalOn」では、契約書ファイルをアップロードして契約リスクチェックや法令遵守チェックを実行することで、契約内容に含まれるリスクや、法令遵守上の確認事項をアラートとして確認できます。
特に、法令遵守チェックではフリーランス法に対応しており、同法の適用が想定される業務委託契約を締結する際の確認に活用できます。自社の点検作業を効率化したい、チェック漏れによるレピュテーションリスクを回避したいとお考えの方は、ぜひ導入をご検討ください。
6. まとめ
フリーランス法の規定を遵守しないと、公正取引委員会による指導や勧告の対象となり、企業としてのレピュテーションが損なわれるおそれがあります。
企業としては、フリーランスとの取引に用いている契約書や発注書のひな形を、フリーランス法の規定に沿った形に整える必要があるため、総点検を強くお勧めします。
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