1. なぜ「修正文案」の作成に時間がかかるのか
法務担当者が契約書の修正文案の作成に苦慮するのは、主に以下の二つのハードルがあるためです。
相手方への配慮と自社基準の板挟み
自社のリスクを最小化するために厳格な条文にしたい一方で、相手方との信頼関係を損ねたくないという心理が働きます。角を立てずに、しかし譲れない一線は守るという、いわゆる「いい塩梅」の表現を模索することに、多大なエネルギーが費やされています。
条文の整合性の維持と推敲の負荷
社内のひな形や自社基準に基づいて契約書を修正する場合、それらの観点を実際の契約書の文脈に沿うように調整し、反映させたい観点を過不足なく盛り込む必要があります。 また、特定の条項を修正した結果、前後の条項との間に法的・論理的な矛盾が生じないかも検証しなければなりません。このような細かい推敲と検証、さらに参考となる過去の類似契約を検索する作業に、膨大な時間がかかってしまうことも珍しくありません。
2. 修正文案の作成効率化における生成AIの有用性
修正文案の作成における「言葉選び」や「前後の条文との整合性の確認」といった手間を解消する有力な手段が、生成AIの活用です。
生成AIは大規模言語モデル(LLM)をベースとしており、膨大なテキストデータから「文脈に応じた適切な文章」を生成することに長けています。法務担当者が頭を悩ませる「マイルドな表現への言い換え」や「特定の権利義務を明確にする条文化」は、AIが得意とする領域の一つです。
AIを、自身の修正方針を具体的な条文案へと変換するための「推敲の支援ツール」として活用することで、検討時間を大幅に圧縮できます。複数の修正案を瞬時に提示させ、その中から最適なものを選び取るという進め方も容易です。
3. 修正文案の検討に役立つプロンプト例
生成AIは、修正の「方向性」を具体的に指示することで、非常に有能な下書き担当となります。ここでは、実務シーンに合わせたプロンプトの活用例を紹介します。
ケース①:相手方有利な条項を「中立」な表現に調整する
相手方のひな形をベースにする際、一方的な義務や免責が規定されていることがあります。これを角を立てずに公平な内容へ修正したい場合に有効なプロンプトです。
プロンプト例
以下の条項について、[相手方]に過度に有利な内容を特定し、[自社]と[相手方]の利益のバランスが取れた「中立的」な表現に修正してください。 指針: ・一方的な免責規定がある場合は、相互的な規定に変更する ・通知義務や協力義務が一方にのみ課されている場合は、双方に課す内容にする ・法的整合性を保ちつつ、実務上妥当な落とし所を提案すること
[対象の条項をペースト]
ケース②:交渉の「落とし所」を比較検討する
AIに対し、「厳格な案」「中間的な案」「マイルドな案」の3パターンを出力させることで、交渉のカードを事前にシミュレーションすることが可能になります。
プロンプト例
以下の「自社基準」に基づき、対象条項の修正案を「厳格・中間・マイルド」の3つのトーンで作成してください。それぞれの案が、交渉においてどのようなメリット・デメリットを持つかも簡潔に補足してください。自社基準(例):・損害賠償額の上限は、本契約に基づき過去12ヶ月間に支払われた対価の総額とする。・賠償の範囲は、直接かつ通常の損害に限定し、逸失利益や特別損害は免責とする。
[対象の条項をペースト]
4. プロンプトの精度を一段高める「カスタムAI」
生成AIには、Geminiの「Gems」やChatGPTの「GPTs」と呼ばれる、特定の目的に合わせて AI をカスタマイズできる機能があります。これらを活用して自社専用の「契約修正アシスタント」を作成すれば、トーンのズレや形式面の問題など、全ての契約書修正に共通するルールを毎回入力する手間を省くことができます。
共通ルールを「知識」として持たせる
カスタムAI機能(Gemsなど)の指示欄やナレッジとして、以下の情報をあらかじめ登録しておきます。
- 契約書特有の「型」の指定: 「である体」の厳守や、特定のインデントルールの適用など。
- 整合性維持の厳命:「修正箇所以外の条文番号や、他条項への参照番号を勝手に書き換えないこと」といった予防指示。
- 自社独自の用語法:業界用語や社内ルールに基づく定義語の優先使用。
このように「守るべき基本ルール」をAI側に固定しておくことで、個別のチャットでは最小限の指示を投げるだけで、実務レベルに即した高精度な修正案が即座に得られるようになります。
AI自身に「仕上げのセルフチェック」を命じる
プロンプトの精度をさらに高めるテクニックとして、一つの修正案を出させて終わりにせず、AI自身に最終チェックをさせるステップを追加することも有効です。修正案の後に、以下の指示を重ねてみてください。
「この修正案が、契約書全体の文脈や他の条文との整合性を欠いていないか、再度検証してください。特に参照条文の番号に誤りがないかをチェックし、必要であれば修正案を更新してください」
人間が手作業でトーンや条番号を確認する手間をAIに肩代わりさせることで、法務担当者は「AIが整えた完成間近の原稿」を最終確認するだけの状態を作ることができます。
5. 機密情報を守るための「データのぼかし方」
一通り生成AIの活用法を理解したところで、実務上避けて通れないのがセキュリティの確保です。汎用的な生成AIを利用する際、最も注意すべきは機密情報の取り扱いです。契約書の内容をそのまま入力することは、情報漏洩のリスクを伴います。
以下の手順で情報を「ぼかす(マスキングする)」など、秘密情報の漏洩に対する対策を徹底してください。
- 固有名詞の置換:企業名、サービス名、個人名は「甲」「乙」「本サービス」等に置き換える。
- 数値情報の抽象化:金額、期間、違約金の率などは「〇〇円」「●ヶ月」といった記号にするか、削除する。
- 固有情報の削除:特定の取引スキームが推測されるような特異な事実、一般的な記述に書き換える。
こうしたマスキング作業を効率化するには、Wordの「置換」機能を活用するのが便利です。あらかじめ「社名→甲」「金額→●円」といった置換リストを作成しておけば、一括処理によってミスを防ぎつつ、作業時間を大幅に短縮できます。
6. LegalOnのAIアシスタントによる検討と反映の効率化
ここまで見てきたように、汎用AIを実務で使いこなすには、徹底したマスキングや緻密なプロンプトの工夫といった「付帯作業」に多くの工数が割かれます。こうした手間を解消し、本来の目的である「高品質な修正案の作成」をセキュアかつダイレクトに実現するのがLegalOnです。弁護士監修のもと法務領域に特化してチューニングされたAIが、法務の専門性を担保しながら、個人のスキルに依存しない圧倒的な起案スピードを提供します。
マスキング不要のセキュアな環境
LegalOnは法務専用に設計されたセキュアなインフラ上で動作し、入力したデータがAI開発事業者に学習利用されることはありません。そのため、汎用AIで行っていた「ぼかし作業」をすることなく、契約書をそのままの状態でAIに相談できます。
感覚的な指示をふさわしい条文として契約書へ反映
LegalOnのAIアシスタントの最大の特長は、Microsoft Word for the web または Wordアドイン版でAIに指示を出すと、AIが既存条文に対する修正案を提示し、確認後に反映できることです。
「この条項を、もう少し相手に配慮した表現にして」 「自社基準のチェックリストに沿って、足りない要素を追記して」 といった、普段の業務で使うような自然な言葉での指示だけで、AIが文脈を読み取り、適切な修正案を直接書き込みます。Wordの変更履歴に修正履歴を残すこともできるため、そのまま相手方への修正案として提出することもできます。
これにより、検討から反映までのプロセスがシームレスになり、法務担当者は「言葉選びの作業」から解放され、意思決定に集中できるようになります。
まとめ
生成AIの導入は、契約審査における修正案検討の工数を大幅に削減する有効な手段です。まずは汎用AIを利用して、プロンプトの工夫による出力の変化や業務への適応性を確かめることから始めてみてください。
そのうえで、機密情報の保護や業務フローへの最適化をより高いレベルで実現したい場合には、LegalOnのようなリーガル特化型AIの活用が推奨されます。各ツールの特性を正しく理解し、目的に応じて使い分けることが、これからの法務担当者に求められる実務能力となるでしょう。
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