自社基準でのAIレビュー体制構築で工数を半減 プレイブック作成がチームの結束力と横連携を生んだ理由
伊藤忠プラスチックス株式会社
CAOグループ 審査法務部 審査法務二課 古田智也 様
- 法務課題:契約審査基準が担当者の経験に依存し属人化。自社・グループ・商社特有の基準が体系化されておらず、審査品質のばらつきと確認工数増大が課題
- 導入経緯:自社基準に基づくAIレビューへのニーズが高まり、「プレイブック」で独自審査基準を反映できるLegalOnを導入
- 導入効果:自社基準をプレイブック化しAIレビューを自動化。契約審査工数を約半減(1時間→約30分)し、部課長レビューの負担軽減とナレッジ共有を実現
- 活用事例:「レビュー」で自社基準チェックを自動化、「LegalOnテンプレート」で多様な契約書作成、「ユニバーサルアシスト」で英語・中国語契約の理解支援や比較表機能による変更管理を実施
食品容器、電子材料、自動車部品などの合成樹脂製品を幅広く扱う伊藤忠プラスチックス株式会社。同社は2022年にAIレビューサービス「LegalForce」を導入し、2025年1月、後継サービスである法務AI「LegalOn」へと移行しました。現在は「レビュー」「LegalOnテンプレート」「ユニバーサルアシスト」を活用し、商社特有の複雑な商流リスクを管理しています。審査法務部の古田智也様に、システム移行の背景や契約審査基準(プレイブック)の作成プロセス、具体的な活用方法について伺いました。
10名体制で年間約1000件の契約書を審査

御社の事業内容について教えてください。
当社は伊藤忠商事グループの中核を担う化学品専門商社として、「包装資材」「産業資材」「電子デバイス材料」「合成樹脂」の4事業を柱に展開しています。食品パッケージからスマートフォン向け材料、自動車部品まで、扱う商材は非常に多岐にわたります。
近年は環境配慮型製品の開発にも注力しており、ファミリーマートで採用されたバイオマス素材の食品容器が「日本パッケージングコンテスト2025」で部門賞を受賞するなど、サステナブルな社会の実現に向けたソリューション提供を強化しています。
法務部門の組織体制について教えてください。
審査法務部は2課体制で、現在は計10名(基幹職8名、業務職2名)が在籍しています。部長と課長が各1名おり、部長が一方の課の課長を兼務する形で2つの課を統括しています。
大きな特徴は、法務と与信管理を分断せず、全部員が双方の業務を担う点です。契約審査に加え、取引先の支払い能力を評価する財務分析や与信判断、債権回収まで対応しています。与信と法務を一貫して担当するのは、商流全体を把握してこそ、潜在的なリスクを的確に検知できると考えているからです。
契約審査と与信管理の負担割合はどうなっていますか。
業務比率は、契約審査が6割、与信管理が4割です。契約審査は年間約1000件にのぼり、一人あたり年間150件ほどを担当しています。特に海外の取引基本契約は1件で50ページに及ぶこともあり、締結までに何度も修正のやり取りが発生するなど、数字以上の負荷がかかるケースも少なくありません。
一方、与信審査は年間2000〜3000件ほどあります。12月決算が多い海外企業は6月、3月決算が中心の国内企業は9月に繁忙期が重なるため、更新時期を前後にずらすなど、業務を平準化させる工夫をしています。
与信管理との“両輪”でリスクを検知

審査法務部では、どのようなキャリアの方が働いていますか。
メンバーの約半数は法学部出身で、私を除く全員が中途採用です。金融機関や信用調査会社、官公庁など、バックグラウンドはさまざまです。法務と与信管理のいずれかに強みを持って部に参画してきたメンバーが多いですが、入社後にもう一方のスキルを身につけることで、“両輪”で業務にあたっています。
商社のような「右から左へつなぐ」ビジネスでは、契約審査担当者が法務と与信のどちらか一方の知識を持っているだけでは不十分です。両方の視点を持ってこそ、本質的なリスク検知が可能になると考えています。
契約審査に占める海外案件の割合はどれくらいですか。
単体では30~35%が海外案件で、主に英文契約を扱います。米国、韓国、中国、香港、台湾、タイに海外拠点があり、各拠点の審査も私たちが担っているため、連結ベースでの比率はさらに高まります。私自身は現在、業務の約8割が海外案件となっています。
どのような契約類型が多いのでしょうか。
最も多いのは秘密保持契約(NDA)で、全体の約25%を占めます。商社特有なのは、お客様・当社・仕入先の三者間契約が多い点です。商社のビジネスにおいては、当社が取引の中間に入る「バック・トゥ・バック(仕入先と販売先の条件を揃える取引)」の立場を取ることが多いため、販売先と仕入先で契約条件が一致していないと、責任や補償範囲にズレが生じる可能性があります。二者間契約を双方と個別に締結した場合、条項の細かな差異が積み重なり、結果として当社にリスクが集中する構造になりかねません。そのため、可能な限り三者間で同一条件を共有する形を採用しています。
NDAの次に多いのは、取引先との業務委託契約であり、一部、伊藤忠商事の海外拠点と連携し、当社が日本側の交渉窓口を担う際にも業務委託契約を締結しております。現地法人が直接対応せず当社が価格交渉や条件調整を行うケースでは、その業務の対価を定める契約が必要になります。また、在庫を保有した上で販売する取引では、品質保証期間や保管コストの問題から、残存在庫の最終引き取り期日を定める覚書をゼロから起案することもあります。複雑な商流に即した多様な契約を扱う点は、商社ならではだと思います。
契約交渉に審査法務部が直接関わることはありますか。
はい。交渉が難航している場合や相手先が大手企業の場合など、事業部だけでの対応が難しい局面では、私たちも直接関与します。メールだけでなく、Web会議への同席や交渉現場への同行も行います。現場の状況を踏まえながら、ここぞという場面で事業部を支える「切り札」のような役割だと考えています。
属人化の解消と審査品質の標準化が課題

「LegalOn」を導入された経緯を教えてください。
きっかけは、2023年4月に子会社だった協栄電気株式会社と合併したことです。同社が利用していたLegalOnの前身サービスであるLegalForceの契約を引き継ぐ形で活用を始めたのが始まりです。LegalForceにもあった弁護士監修の解説や条文検索機能は有用でしたが、次第に「独自の審査基準」、つまり「自社の基準」「伊藤忠グループの基準」「商社としての基準」それぞれによるAIレビューシステムへのニーズも強まりました。
特に、トレーディング業務における「バック・トゥ・バック」の基準については、当時は判断が審査担当者ごとの経験に依存しており、ナレッジが十分に共有・標準化されていませんでした。その結果、審査品質のばらつきや確認工数の増加が顕在化してきたのです。そこで、自社基準に沿った自動レビューが可能なLegalOnの「プレイブック」機能に着目し、2025年1月に移行するかたちで導入しました。
「LegalOn」の「プレイブック」機能。自社で定めた審査基準(プレイブック)をもとに、契約書をAIが自動レビュー。条文ごとにリスクを検知し、重要度や妥協案・推奨条文まで提示できます。(※ 画像はイメージです)
LegalOn導入前は、自社基準を厳密に規定したチェックリストはなかったのでしょうか。
そうですね。当時は8名の審査担当者が、それぞれ過去の案件や個人の経験を頼りに審査を行っていました。部内でのナレッジ共有は十分とは言えず、明確な自社基準もなかったため、属人化の解消と審査品質の標準化は大きな課題でした。
LegalOn導入前の契約審査の業務フローを教えてください。
まず、依頼部門がワークフローシステムで契約書と申請書を提出し、業務職メンバーが審査担当者に各案件を振り分けます。審査担当者は申請書の内容(取引先、商材、利益率、在庫数など)と契約内容の整合性を確認した後、契約書をLegalForceにアップロードして一次レビューを行います。
修正案をまとめた後、契約書と申請書は課長、部長へと回付されます。ここでは一次レビューよりもより細かいメッシュで審査が行われます。当時は自社基準との照合を各自で行っていたため、この工程に多くの時間と労力を要していました。
LegalOn導入前後の契約審査フローの変化
暗黙知を言語化して自社基準を再定義
LegalOnの導入で、業務フローはどのように変わりましたか。
受付からレビューまでの基本フロー自体は大きく変わっていませんが、一つ大きく変化した点を挙げると、当社独自の基準を「プレイブック」としてLegalOnに登録したことです。そうすることで、LegalOnの「レビュー」モジュールにおいて自社基準に基づくAIレビューが可能になります。これにより、過去の類似案件を共有フォルダから探し回るなどの必要がなくなり、自社基準に沿ったリスクチェックをシステム上で完結できるようになりました。
まずは主要2類型について、売り手・買い手それぞれの立場で計4種類のプレイブックを作成し、LegalOnにアップロードしました。現在は取引基本契約についてもプレイブックの整備を進めています。
各担当者に属人化していた自社独自のチェック基準を集積してリスト化するのは手間がかかったのではと思います。「プレイブック」の作成にはどれくらい時間がかかりましたか。
審査担当者8名が、それぞれの経験に基づく自社基準を1時間ほどかけて棚卸しし、案を持ち寄りました。その後、3時間ほどの会議で内容を集約し、NDAについては「受領者・開示者・相互」の3パターンを作成しました。
その草案を部課長が自身の基準と照らし合わせて最終確認を行い、承認後にLegalOnへ反映させました。業務の合間にこの作業を行うのは楽ではありませんでしたが、このプロセスを通じて個々の暗黙知が言語化され、自社基準が再定義されたことは大きな成果でした。
プレイブック活用による効果はいかがですか。
工数は従来の約半分に削減され、従来1時間かかっていた審査が30分程度になりました。自社基準が自動で照合されるため、特に部課長による二次・三次レビューの負担軽減は顕著です。部課長の頭の中にあった観点を多分にLegalOnの「プレイブック」に盛り込んだので。
また、副次的な効果として部内のコミュニケーションが活性化したことも大きな収穫です。これまでは上司と部下という縦のやり取りが中心でしたが、プレイブック作成を通じて審査担当者同士の横の対話が増えました。互いの知見をぶつけて議論を重ねたことで、知見の共有や新たな気づきにつながりました。
ビジネスを後押しするLegalOnの多彩な機能

「LegalOnテンプレート」はどのように活用していますか。
自社ひな形もありますが、LegalOnテンプレートは種類が圧倒的に豊富で、M&Aや特殊な業務委託などイレギュラーな契約時に重宝しています。LegalOn搭載のひな形をベースに、そのまま契約書を作成することも珍しくありません。
例えば、取引先の建物の一部を間借りするにあたり、自社に「建物賃貸借契約書」のひな形がなかったのですが、テンプレートをアレンジすることですぐに実務対応できました。その類型のスタンダードがまとまっている「LegalOnテンプレート」のひな形は、先方ひな形での契約の際の差分チェックにも役立っています。
「ユニバーサルアシスト」はどのように使っていますか。
主に英語と中国語の契約書で活用しています。英文契約では、自分の解釈が適切かどうか、確信を持ちたい時の「裏付け」として活用しています。一方、自力での解読が難しい中文契約ではほぼ全面的に頼っています。翻訳精度も高く、レビューで提示される修正案などで実務に即した表現が学べる点も魅力です。
その他、便利な機能はありますか。
契約書の「比較表」機能は非常に重宝しています。先方修正案と社内決裁済みドラフトを全文比較し、変更箇所をハイライトした状態で申請書に添付できるため、上長の確認作業が格段にスムーズになりました。
ビジネスを加速させる「攻めの法務」へ

組織としての今後のビジョンを教えてください。
LegalOnにナレッジを集約し、依頼部門からのあらゆる相談に即応できる体制を目指しています。急ぎの相談にも、AIと蓄積データを活用して、根拠ある判断をスピーディーに返せる法務でありたいですね。
私たちの役割は、リスクにブレーキをかけるだけではありません。AIを武器にビジネスを前に進める「攻めの法務」を体現し、商社としての競争力を支えていきたいと考えています。
LegalOnをどのような企業におすすめしますか。
契約件数が多く、スピード対応が求められる企業様には間違いなくフィットします。また、ナレッジの属人化に課題を感じている組織にも最適です。情報を個人ではなく、プラットフォームに蓄積して共有できるメリットは非常に大きいと思います。
加えて、若手や法務経験の浅いメンバーの育成面でも心強いツールです。学習コンテンツも充実しており、実務と教育を両立できる点は大きな魅力です。単なるレビューツールを超えて、組織全体の底上げに貢献してくれるサービスだと感じています。
(取材日:2026年2月)※掲載内容は取材当時のものです。