ノウハウ継承と属人化の解消へ AIエージェントと歩む建設法務の新しいカタチ
株式会社竹中工務店
法務室 法務部 シニアチーフエキスパート 柳沼尚紀 様 法務室 法務部 チーフエキスパート 大野直都 様 法務室 法務部 主任 千切 裕美子 様 法務室 法務部 担当 竹口寛之 様
- 法務課題:契約審査の属人化とベテランのノウハウの未言語化、年間2000件超の審査対応による負荷の大きさ
- 導入経緯:コロナ禍を契機にデジタル化を推進しLegalForceを導入、さらに自社基準を反映できるプレイブック機能を評価しLegalOnへ移行
- 導入効果:自社基準に基づく標準化された高精度レビューを実現、審査効率と品質向上に加え若手の成長速度向上(従来比約3分の1)
- 活用事例:プレイブックによる審査基準の可視化、AIアシスタントによる契約要約・比較・リサーチ支援、テンプレート併用で高難度契約の効率作成
日本を代表する総合建設会社である株式会社竹中工務店。同社は2025年4月、法務業務の品質向上と効率化を目的に法務AI「LegalOn」を導入し、現在は「レビュー」「LegalOnテンプレート」「ユニバーサルアシスト」「LegalOnアシスタント」の各モジュールを活用しています。ベテランのノウハウ継承や属人化といった課題に向き合う中で、法務の専門知と最新AIをどう使いこなしているのか? 法務室法務部の柳沼様、大野様、千切様、竹口様の4名にお話を伺いました。
年間2000件を超える膨大な契約審査
(写真左から)柳沼様、大野様、千切様、竹口様
御社の事業内容について教えてください。
柳沼様 竹中工務店は、設計から施工までを一貫して手掛ける総合建設会社です。創業から400年以上にわたり、国内外で数多くの建築物を手掛けてきました。近年は、人・組織・社会システムのあらゆる領域でポジティブな影響を生み出す「リジェネラティブ(再活性)」の考え方を取り入れ、脱炭素社会や資源循環型社会の実現、自然との共生に向けた取り組みを強化しているほか、技術革新・DXや人材活躍としての人づくり・場づくりにも重点的に取り組んでいます。
法務部門の組織体制について教えてください。
大野様 当社は本社機能として法務室が存在し、建設事業では大阪と東京、東西2つの「本店」と全国に「支店」が存在しその下に「営業所」や「作業所」が連なる階層構造です。また、前述の事業部以外として海外事業本部、開発事業本部が存在します。約10名が所属する本社の法務室が全社の法務機能を担っていますが、各本支店や事業部にも各管掌エリアにおける建設事業関連の契約や法務対応を担う法務グループが存在します。そのため、LegalOnのアカウントは本社だけでなく、全国の拠点へ広く展開しています。
皆さまのキャリアについても教えていただけますか。
竹口様 私は2019年に入社し、施工事務や工務部を経て、昨年4月に法務部へ配属されました。現在は法務1年目として、まちづくりや開発計画・生産関連の契約審査を主に担当しています。
千切様 私は2015年に入社し、施工事務を経て2018年に法務部へ配属されました。二度の育児休業を経て、現在は知財を含む技術開発や、経営企画・広報関連の契約審査を主に担当しています。
大野様 2012年に入社し、施工事務を経て2018年から法務を担当しています。現在はキャリア8年目として、新規事業のスキーム検討や投資案件などの上流業務を担当しています。また、リーガルテック推進や業務効率化の旗振り役も務めています。
柳沼様 私は2007年入社で、施工事務や工務部を経て、2年前から法務に携わっています。現在は大阪を拠点に、関西圏の都市開発やまちづくり領域の案件を幅広く担当しています。若手メンバーの契約審査を支えつつ、複雑な案件の調整を担う立場です。
取り扱う契約書の類型や件数について教えてください。
大野様 取り扱う契約は、数万円規模の改修工事から1000億円を超える案件まで非常に幅広く、本社だけでも年間約2000件にのぼります。契約の類型も非定型なものが多く、建設関連はもちろん、業務委託契約、知財関連、会社法関連の契約、出向契約など多岐にわたります。事業部にいた頃は、ひとりで1日30件の契約審査を行うこともあったので、全社で見ると契約の数は膨大になると思います。
「プレイブック」機能で自社固有の審査基準を可視化

「LegalOn」導入に先立ち2021年にAIレビューサービスである「LegalForce」を導入いただきました。導入の背景を教えてください。
千切様 以前は紙ベースの契約書を目視で審査していましたが、コロナ禍をきっかけに法務業務のデジタル化と効率化が急務となりました。法務におけるテクノロジー活用が広がる中、当社としても先進的な技術を積極的に取り入れ、業務の質を高めるべきだと考え、LegalForceを導入しました。
トライアルではPDFの読み込み精度に加え、条文の不足やリスクを瞬時に指摘する機能に驚きました。「目視のみの契約審査」から脱却し、確実に効率化できると確信したことが導入の決め手でした。
大野様 当初は社内にもAIレビューに懐疑的な声もありましたが、実際に使ってみると利便性が評価され、翌年以降は全国の拠点へ展開が進みました。具体的には例えば、条文などの「抜け漏れ」を検知できる点にAIの強みを感じています。目視では、記載内容の是非は判断できても、合意管轄や解除条項など「本来あるべき条項の欠落」に気づけないことがありますが、AIはそれを瞬時に検知できるので、審査時の不安を解消する大きな支えになっています。
2025年4月に「LegalOn」へ移行した理由は何ですか。
大野様 自社固有の契約審査基準をシステム上に登録し、AIレビューを行える「プレイブック」機能に大きな魅力を感じたことです。
「LegalOn」の「プレイブック」機能。自社で定めた審査基準(プレイブック)をもとに、AIがリスク箇所を即座に特定。条文ごとにリスクを検知し、重要度や妥協案・推奨条文まで提示できます。(※ 画像はイメージです)
柳沼様 契約審査において、一般的なリスク指摘だけでなく、「どこまで許容し、どこを譲らないか」という当社独自の判断基準を明確にする必要がありました。これまでは、こうした基準が担当者個人の経験に依存し、属人化していました。メンバーの経験値も多様化する中で、「プレイブック」を活用すれば、自社ポリシーに沿った高精度かつ標準化されたレビュー体制を整えられると考えたことが、LegalOnへ移行した大きな理由です。
「プレイブック」機能の利用には、あらかじめ自社基準をまとめたチェックリストの作成が必要です。その作成はどのように進めましたか。
柳沼様 ボリュームゾーン世代の退職が進む中、ベテランのノウハウ継承は喫緊の課題でした。そこで法務部の若手メンバーで作成した素案を経験豊富なベテランに確認してもらい、厳しいフィードバックを受けながら、長年言語化されてこなかった審査の観点を整理しました。弁護士の助言も得ながら修正を重ねたことで、属人化していた「竹中ならではの判断基準」をようやく形にすることができました。
大野様 作成は大変でしたが、若手からは「自社の判断基準が明確になり参考になる」と好評です。法務職能が公式にまとめた基準であるため、若手が事業部と交渉する際も「社内ルールに基づく判断」と自信を持って説明できるようになったと聞いています。現在は建築事業で頻出する類型を中心に6種類ほど作成しており、今後は使用感をみながら内容のブラッシュアップを図っていこうと考えております。
法務特化型AIアシスタントの活用法は無限大

LegalOnアシスタントはどのような経緯で導入されたのですか。
大野様 導入のきっかけは「面白そうだ」という好奇心でした。実際に試してみると実務でも十分に通用するクオリティだったため、全メンバーへの展開を決めました。
「一般的な生成AIで十分ではないか」という声もありましたが、秘匿性の高い契約情報を扱う以上、安全性の担保は欠かせません。法的知識の正確さに加え、入力データが学習に利用されないクローズドな環境が保証されている点は、他のAIサービスとの大きな違いだと感じています。
LegalOnアシスタントは、契約書や法務業務に関する質問・指示をAIにチャット形式で行える法務特化のAIアシスタントです。契約書の要約、条文の説明、翻訳、修正指示などを対話形式で実行でき、レビューやリサーチの効率を大幅に向上。日常業務の中で法務担当者の判断や作業をサポートします。(※ 画像はイメージです)
普段は「LegalOnアシスタント」をどのように活用されていますか。
竹口様 基本的な校閲指示による誤字脱字チェックに加え、リーガルリサーチの壁打ち相手として活用しています。調査したい内容を入力し、返ってきた内容を手がかりにその後の文献調査などに繋げていきます。AIへの指示を保存・共有できる「プロンプトライブラリ」から定型文をそのまま使える点も、実務のスピードアップにつながっています。
千切様 法人設立に伴う法人内規程の検討で活用しました。「LegalOnテンプレート」のひな形から必要な項目を抜き出し、他法人の規程と組み合わせたうえで、ベースとなるドラフトをAIに作成してもらいました。そのドラフトから規程案を作成することで、ゼロから作成する場合と比べて工数を大幅に削減できました。
大野様 契約書のバージョン比較では、単なる差分表示にとどまらず、変更点の有利・不利を理由付きの表形式で整理させています。また、非定型なパートナーシップ契約などでは、複雑な権利義務関係を一覧表にまとめています。これにより「この契約で何ができるのか」が明確になり、事業部にリスクを説明する際の有力な材料になります。
優秀なアシスタントが担当者と二人三脚で業務を進めるイメージでしょうか。
柳沼様 おっしゃるとおり、まさに「相棒」のような存在ですね。例えば、過去に同じ相手と締結した契約を検索し、当時の修正履歴と現在の案を比較するといった使い方もしています。自分が直接担当していなかった案件でも経緯や修正ポイントをすぐ把握できるため、知見共有の面でも心強いパートナーだと感じています。
大野様 若手にとっては、どんなことでも気兼ねなく聞ける相談相手になっています。特約条項の影響など、上司などに何度も聞くのは気が引ける初歩的な疑問や壁打ちも、AIには気軽に質問できます。
また、校正作業ひとつとっても、論理的な矛盾の確認は「LegalOnアシスタント」、自社基準によるAIレビューや表記揺れなどの形式チェックは「レビュー」といったように機能を使い分けることで、審査精度の向上につながっています。
学習ツールの併用で知識をキャッチアップ

その他、便利だと感じる機能はありますか。
大野様 「LegalOnテンプレート」は、商標権ライセンスなど当社の法務部員では扱う機会が少ない類型の契約書を作成する際に重宝しています。余談ですが、以前、先方から提示されたドラフトがLegalOnのひな形そのものだったことがあり、驚いたことがあります。それだけサービスが広く普及しているのだと感じました。そういった場合も共通のひな形をベースに議論できるため、契約交渉も進めやすいと実感しています。
竹口様 私は「LegalOnテンプレート」と「LegalOnアシスタント」を組み合わせて活用しています。例えば、ソフトウェア契約に特許許諾が絡む複合的な案件では、複数のテンプレートから共通条文をAIに抽出・整理させ、それをもとに契約書をカスタマイズします。ひな形とAIを組み合わせることで、難度の高い契約書も効率よく作成できています。
千切様 英文翻訳機能も非常に精度が高いと感じています。法務に特化しているため安心して使えます。また、「LegalOnテンプレート」には英文契約書のひな形も豊富に揃っているので、自社にひな形がない契約でも、ファーストドラフトとして活用できる点が便利です。
御社はさまざまな部門から異動されて法務に携わる方々ばかりのようですが、法務知識のキャッチアップはどのように行っていますか。
竹口様 私のような法務経験が浅い者にとって、先輩や上長の知見が詰まったプレイブックは、経験豊富な先輩たちの思考プロセスを学べる教材のような存在です。プレイブックによる「自社基準」と、AIレビューが示す「一般的な法務視点」の両方を確認しながら実務を進めることで、効率良く知識を身につけることができました。
大野様 私が法務職に就いた2018年頃は学習手段が限られ、「何をどう学ぶべきか」と模索する日々でした。現在はLegalOnを使いながら、レビュー機能の解説を読んで知識を補完できるほか、御社のサービスのeラーニングサービス「Legal Learning」や、リサーチツール「Legalscape」(注:「LegalOn」と連携可能)などを導入し、学習・リサーチ環境も充実させています。
こうしたツールを法務1年目から使いこなすことで、今の若手は成長が非常に早いと感じます。以前なら3年くらいかけて成長するところを、今では1年くらいで成長できるようになったのではないかという印象です。LegalOnの導入は、業務効率化だけでなく教育面でも大きな効果を感じています。
AIと人が協働する法務の未来

法務組織の今後のビジョンや目標を教えてください。
大野様 今後は、AIが法務担当者にとって欠かせない「パートナー」として常に傍らにある状態が当たり前になると考えています。その特性を正しく理解し、使いこなすことが重要であり、活用度をさらに高めていくことが社内の共通認識になっています。
一方で、AIが力を発揮するほど、人間の役割は「最終的な意思決定」に集約されていきます。取引先との関係性や企業戦略、これまでの経緯といった背景を踏まえた総合判断は、人にしかできません。AIの提示を重要な判断材料としながら、最終的には人が責任を持って判断する――。それこそが、これからの法務の役割だと考えています。
(取材日:2026年2月)※掲載内容は取材当時のものです。